「Z世代を雇うより、移民やAIでいい」と言われる日【静かに除外されるZ世代】

「歓迎会のあとも、あなたの席はあるか」の見出しと「人手不足とAIが変える、Z世代の居場所」の副題。空いた椅子の奥で同僚が歓談している。 就活・転職・働くこと
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アメリカで1998年から2015年にかけて、ある特定の層でひそかに、しかし確実に死亡率が上昇しました。 いったい、どんな人たちだったと思いますか。

医療にアクセスできない貧困層のマイノリティでしょうか。あるいは、過酷な労働環境に置かれた移民のコミュニティでしょうか。 違います。答えは、「大卒の学位を持たない、中年の非ヒスパニック系白人」です。

プリンストン大学のアン・ケースとアンガス・ディートンによる2017年の研究(※1)が、この衝撃的な事実を世界に突きつけました。彼らは、薬物の過剰摂取やアルコール関連の肝疾患、そして自殺による死を「絶望死(deaths of despair)」と名付けました。対象とされたのは主に35歳から59歳までの人々です。驚くべきことに、同じ時期、黒人やヒスパニック系の中年層の死亡率は低下していたにもかかわらず、かつてはアメリカ社会の絶対的な中心であり、マジョリティであったはずの白人労働者階級で、死亡率が上がっていたのです。

なぜ、彼らはこれほどの絶望に追い込まれたのでしょうか。

失われたのは、給料だけではない

働く人を中心に、収入、日々の役割、人とのつながり、将来の見通しの四つを結んだ図。仕事が持つ複数の側面を示す。

もちろん、オピオイド鎮痛薬の過剰処方など、複合的な要因はあります。しかし、研究が示した仮説のひとつは、「労働市場の悪化がもたらした、人生の足場崩壊」でした。

もし工場からのリストラで職を失えば、失うのは仕事だけではありません。親の世代が当たり前のように手に入れていた「安定した仕事」、そこから続く「結婚」や「地域社会での確固たる役割」、そして「思い描いていた中流の暮らし」という、人生のシナリオそのものを根こそぎ失うことにもなるのです。

かつては、マジョリティである「白人」に生まれれば、ある程度の豊かさと社会的な居場所が約束されているという暗黙の期待がありました。彼らは「自分たちこそが標準である」という物語を生きてきました。しかし、社会構造と産業の転換は、その期待を容赦なく打ち砕きました。

もはや「多数派だから自動的に上にいられる」という前提は、どこにも通用しません。

多数派だから、主役でいられるのか

ここで、別の統計を見てみましょう。米労働省が発表した2026年4〜6月期の週給中央値(※2)です。フルタイムの賃金・給与労働者の週給中央値を見ると、白人の1,268ドルに対し、アジア系は1,713ドルと大きく上回っています。

事実を曲げないために、ここで少しだけ立ち止まっておきます。この数字は、「有色人種全体が白人よりも高所得になった」という意味ではありませんし、人種間の生来の能力差を示すものでもありません。背景には、学歴の割合や、就いている職種の構成の違いがあります。また、時期も対象も異なる過去の「絶望死」の研究とこの所得統計を強引に結びつけて、「他人種に稼ぎ負けたから白人が死んだのだ」などと短絡的に断定するつもりもありません。

しかし、これらの事実が束になって私たちに教えてくれる冷酷な真理があります。 それは、「マジョリティという属性に寄りかかっているだけで、社会の主役でいられる時代は完全に終わった」ということです。能力や環境適応力がなければ、マジョリティであっても容赦なく社会の周縁へと押し流されていく。システムが自分たちを守ってくれるという幻想が剥がれ落ちたとき、人は深い喪失感に襲われます。

この「期待と現実のズレ」がもたらす痛みは、果たして海の向こうの他人事でしょうか。

日本の主役は、もう日本人だけではない

さまざまな外見の同僚が同じ机で資料を確認し、画面越しの同僚も参加している。誰かを排除せず、一緒に仕事を進める場面。

視線を日本に向けてみましょう。 社会の風景は、私たちが気づかないうちにすでに大きく変わっています。スポーツの世界を見渡せば、海外にルーツを持つ日本人アスリートたちが、日の丸を背負って世界中で目覚ましい活躍を見せています。陸上、バスケットボール、柔道。さまざまな競技で、彼らはもはや特別な存在ではなく、日本のスポーツ界を牽引する中心選手として躍動しています。

街に出れば、どうでしょうか。2025年10月末時点で過去最多となった外国人労働者(※3)が、社会のインフラを力強く支えています。彼らはもはや「日本人がやりたがらない単純労働」を担うだけの存在ではありません。複雑な決済システムを多言語でさばくコンビニエンスストアの店員から、最先端のコードを書くITエンジニア、グローバルビジネスを牽引する専門職まで、あらゆる層に彼らの姿があります。彼らがいなければ、この国は一日たりとも回りません。

彼らもまた、同じ日本人であり、あるいは私たちの社会に不可欠な隣人です。「外から来て私たちの席を奪った」などという排外的な扱いや被害者意識を持つのは、完全に的外れでしょう。

ただ、ここで私たちが突きつけられている現実があります。 それは、「旧来の伝統的な日本人の背景を持っている」という理由だけでは、もはや自分たちだけが主役になるわけではない、ということです。これまで日本社会が暗黙のうちに持っていた「マジョリティの特権」や「日本人だから優先されるべき」という甘えは、少しずつ、しかし確実に社会から消えつつあります。

人手不足の歓迎は、いつまで続くのか

「人手が足りない」と「あなたの仕事を評価」の二つの場面を比較。中央の重なる円と「両方の場合も」の文字で、二つの理由が重なることも示す。

翻って、今の日本の労働市場はどうでしょうか。 少子高齢化による強烈な人手不足を背景に、2027年卒の大卒求人倍率(※4)も高水準を維持しています。若手社員への待遇は手厚くなり、初任給は引き上げられ、企業はこぞって「心理的安全性」や「働きやすさ」をアピールしています。Z世代と呼ばれる若い人たちは、まさにVIP待遇で企業から「歓迎」されています。

ハラスメントへの異議申し立てがしやすくなり、労働環境が浄化されていくこと自体は、社会の素晴らしい進歩です。理不尽な精神論や暴力的なマネジメントは、過去の遺物として完全に葬り去られるべきでしょう。

ですが、一度だけ立ち止まって考えてみてください。 いま、あなたが大切にされているのは、「あなた自身が仕事のプロフェッショナルとして、他を圧倒して選ばれているから」でしょうか。それとも、「単に労働市場に若者がいないから」でしょうか。

その配慮は、あなたを育てているのか

上司と若手が資料を一緒に直す場面と、上司が背を向け若手が未添削の資料を抱える場面。「一緒に直す」と「何も伝えない」を対比する。

必要な配慮を行うことと、仕事上の誤りを正すことは、まったく別の問題です。しかし、もし職場で、「厳しく指導して辞められたら困る」「機嫌を損ねないように」と、マネジメント側が過剰に萎縮し、両者を混同していたらどうでしょう。厳しいフィードバックを与えず、ただ優しく見守る。それは一見すると「大切にされている」ように見えますが、実は違います。企業側が「リスクを取って人を育てること」を静かに放棄し始めているサインかもしれないのです。

もしあなたが大切にされている理由が「他に人がいないから」だとしたら。 企業の選択肢が増えたとき、その温かい歓迎はいつまで続くのでしょうか。

企業が、育てる以外の道を手に入れたら

下書きの一部をAIを使って進める人と、隣でノートを開く新人。「新人の練習機会は?」という問いを添え、経験を積む機会を考える図。

グローバル化が進み、リモートワークが定着した今、優秀でハングリーな外国人材という選択肢はさらに広がっています。そして何より、AIという未知のゲームチェンジャーがすでにオフィスの中心に座り始めています。

AIは、機嫌を取り結ぶ必要がありません。ハラスメントを気にして言葉を選ぶ必要も、モチベーションを管理する必要も、ワークライフバランスを考慮する必要もありません。これまで新入社員が「仕事の基本を覚えるため」に任されていた、議事録の作成、データ収集、メールの起案、基礎的なコードの記述。そうした仕事の一部は、すでにAIが一瞬でこなすようになっています。

企業が、「高いコストと精神的労力をかけて、ゼロから国内の若手を育てる」以外の仕事の進め方を本格的に手に入れたとき、今の「採用時の好待遇」は、将来の居場所まで保証してくれるのでしょうか。下積みの仕事がAIに奪われたとき、未経験の若者はどこで経験を積み、プロフェッショナルになればいいのでしょうか。

歓迎会のあとも、あなたの席はあるか

誤解のないように言っておきますが、これは日本でもアメリカと同じような「絶望死」の波が必ず起きると予言しているわけではありません。ただ、社会の主役であるという期待を持ったまま、実力が伴わずに居場所を失っていく構図は、決して無縁とは言えないはずです。

そして、これは決してZ世代だけを「無能だ」と決めつけて責めるものではありません。まったく同じ基準、いや、それ以上に厳しい基準が、過去の成功体験にしがみつき、新しいツールも学ばずにふんぞり返っている上の世代にも当てはまります。年齢を重ねている分、学び直す柔軟性がないと判断されれば、彼らもまた容赦なくAIや代替人材に席を奪われるでしょう。

国籍。年齢。マジョリティであること。そして、人手不足という時代背景。 それらの「ゲタ」をすべて外されたとき、あなたには、仕事の現場で選ばれるだけの何が残っているでしょうか。

ちやほやされる「売り手市場」の熱狂のなかで、私たちは残酷な未来への問いを突きつけられています。

ゆるふわな環境が、自分が定年するまで続くと思う?

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参考資料

※1 Case & Deaton, Mortality and Morbidity in the 21st Century(2017)
https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2017/03/casedeaton_sp17_finaldraft.pdf

※2 米国労働統計局「Usual Weekly Earnings of Wage and Salary Workers, Second Quarter 2026」
https://www.bls.gov/news.release/archives/wkyeng_07212026.htm

※3 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68794.html

※4 リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(2027年卒)」
https://www.works-i.com/surveys/item/260423_recruitment_saiyo_ratio.pdf

福山

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