小惑星から石や砂を持ち帰ったと聞くと、「なぜわざわざ遠くまで行って石を採ってくるのだろう」と思うかもしれません。さらに、そこから生命の材料になる物質が見つかったと聞けば、「中身を調べる前に、なぜその小惑星を選べたのだろう」という疑問も浮かびます。
「はやぶさ2」がリュウグウを目指したのは、地上からの観測で、水や有機物の手がかりを持つと期待できる小惑星だと分かっていたからです。そこに、採った試料を地球へ届けられる軌道という条件も重なりました。
持ち帰った石や砂などの「試料」は、地球のさまざまな装置で詳しく調べられています。その目的は、太陽系ができたころの物質や、水と有機物の歴史をたどり、私たちの地球がどのようにできたのかを探ることにあります。
目的地を選んだときの予想から、帰還後の発見まで、順番に見ていきましょう。
中身を見る前に、なぜリュウグウを選べたのか
反射した光から、石の性質を予想する

遠くの小惑星は、地上の望遠鏡では小さな点にしか見えません。それでも、その点から届く光には、表面の物質を知る手がかりがあります。
小惑星が反射する太陽光を波長ごとに分けて調べると、どの波長の光をよく反射し、どの波長を吸収するかが分かります。この光の特徴を表したものが「スペクトル」です。
リュウグウは、こうした地上観測から「C型」というグループに分類されていました。C型の反射スペクトルは、水や有機物を含むことのある「炭素質コンドライト」という種類の隕石に似ています。
地球に落ちてきた隕石を調べた知識と、遠くの小惑星から届く光の特徴を照らし合わせることで、「ここには太陽系の初期や、生命の材料につながる情報が残っているかもしれない」と予想できたのです。
もちろん、光から得られるのは手がかりです。どんな有機物が、どれくらい含まれているのかまで、出発前に分かっていたわけではありません。その予想を確かめるために、探査機を送りました。
行って、試料を持ち帰れる軌道にあった
科学的に面白い小惑星でも、探査機がたどり着けなければ調べられません。今回は、石を採ったあとに地球へ届ける道筋も必要です。
リュウグウは地球に比較的近い軌道を通る小惑星で、探査機が往復するための条件が合っていました。JAXAは選定理由として、往復できる軌道にあることと、C型であることを挙げています。
「調べたい物質がありそう」と「実際に行って、試料を届けられる」。この二つがそろった目的地が、リュウグウだったのです。
なぜ、太陽系初期の情報が残っていると考えられたのか
太陽系が生まれたのは、約46億年前です。ただ古い石であれば、当時のことが何でも分かるというわけではありません。その後、どんな変化を経験したかが重要になります。
たとえば地球では、大規模な加熱や溶融によって、物質の分かれ方や鉱物の組み合わせが変わってきました。できあがった惑星を調べるだけでは、元の材料の姿をさかのぼるのが難しい場合があります。
一方、水を含む鉱物や有機物を残していると期待されたC型小惑星は、強い加熱でそうした情報が失われるような変化を、比較的免れている可能性がありました。そこで、惑星の材料となった物質を調べる相手として注目されたのです。
この期待を、現地での観測と持ち帰った石の分析で確かめていくことになります。
はやぶさ2は、どうやって石を採ったのか
「はやぶさ2」がリュウグウで試料を採り、地球へ届けた流れを整理すると、次のようになります。
- 2014年12月:地球から打ち上げ。
- 2018年6月:リュウグウに到着し、近くから観測。
- 2019年2月22日:1回目のタッチダウン(表面への短時間の着地)で、表面の試料を採取。
- 2019年7月11日:2回目のタッチダウンで、人工クレーターの近くから試料を採取。
- 2020年12月6日:試料の入ったカプセルが地球へ帰還。
一度の探査で2回採取し、それらを一つのカプセルで地球へ届けました。
試料の採取には、機体の下部から伸びた筒状の装置を使いました。先端が地面に触れた瞬間に小さな弾丸を撃ち出し、飛び散った石や砂を筒の中へ取り込む仕組みです。
2回目は、衝突装置で人工クレーターをつくり、地下から飛び出して周囲に積もった物質を狙いました。長く宇宙空間にさらされた表面と、地下にあった物質を比べるためです。探査機はクレーターの近くに短時間着地し、そこにある物質を採取しました。

地球へ届けられた石や砂は、合わせて約5.4グラム。帰還したのは試料入りのカプセルで、「はやぶさ2」の本体は地球を離れて次の探査へ向かいました。
探査機本体を帰還させるかどうかは、ロボット探査の強みを考えた記事でも取り上げています。今回は、機体の代わりに石を届けることが、次の研究につながりました。
現地で調べるだけでなく、なぜ石を持ち帰るのか

「はやぶさ2」は、石を採るだけの探査機ではありません。カメラや赤外線を使う装置などで、リュウグウの形や地形、表面の物質を調べています。
それでも実物の試料を持ち帰る「サンプルリターン」を行ったのは、現地での観測データと、地球での詳しい分析を組み合わせることに強みがあるからです。
一粒の石を、地球のさまざまな装置で調べられる
地球では、電子顕微鏡で細かな構造を見たり、質量分析計で元素や分子を調べたりできます。強いX線などを使える大型の放射光施設での分析も行われました。
石を薄く加工したり、特定の成分を取り出したり、別の測定方法で確かめ直したりと、研究目的に合わせて試料の扱い方や装置を選べます。探査機に積んだ装置だけでは難しい組み合わせを、地上の研究施設で使えるのです。
その結果、写真では同じ黒い粒に見えていたものから、鉱物の種類や微量な有機物、過去の反応を示す特徴が見えてきます。
どこで採った石なのかを、現地の記録と結びつけられる
隕石も宇宙の物質を調べる大切な試料です。ただ、多くの場合、どの天体のどの場所から来たのかを正確には特定できません。地表に落ちたあと、水や空気などの影響を受けることもあります。
サンプルリターンなら、採った場所の画像や周囲の観測データと、石そのものを対応させられます。リュウグウの試料は、回収後も真空や窒素の環境で扱うなど、地球の物質が混じったり試料が変化したりする影響を抑えてきました。
「この石には何が含まれているか」だけでなく、「どこにあり、どんな環境を経験したものか」まで考えられます。こうした背景を踏まえられることが、分析結果を解釈するときに役立ちます。
帰還後も、新しい技術や問いによって調べ続けられる
持ち帰った試料は、一度分析したら研究が終わるものでもありません。保管してある試料を使えば、別の研究者が新しい方法で調べたり、以前の分析では答えが出なかった問いに取り組んだりできます。
実際、リュウグウの試料からは、2020年の帰還後も研究成果が続いています。試料を地球へ届けたあとも、石を通して探査が続いているのです。
持ち帰った石から、何が分かったのか
太陽系初期の特徴と、水による変化の痕跡

持ち帰った試料では、岩石をつくる多くの元素の割合に、太陽系初期の特徴がよく残っていました。こうした、初期の特徴をよく残す性質を「始原的」と呼びます。
その一方で、水と反応してできた鉱物も多く見つかりました。リュウグウの元になった天体の内部で氷がとけ、その水が石を変化させたと考えられています。鉱物のごく小さな隙間に閉じ込められた液体の水も報告されました。
今のリュウグウの表面に川や海があるという話ではなく、石の中に過去の水の記録が残っているのです。鉱物の種類や組み合わせを調べることで、どんな環境で変化したのかをたどれます。
ここで大切なのは、材料をつくる多くの元素の割合がよく残っていることと、一つひとつの鉱物が水で変化していることは、両立するという点です。初期の特徴が残っているからといって、その後ずっと何も変わらなかったわけではありません。
現在のリュウグウも、もっと大きな天体が衝突で壊れ、その破片が集まってできたと考えられています。石に残っているのは、太陽系初期の材料の特徴と、その後に水や衝突などを経験した歴史です。
生命の材料につながる有機物
2023年に公表された分析では、アミノ酸など、さまざまな有機物が確認されました。アミノ酸は、地球の生物が使うタンパク質を構成する物質でもあります。
同じ2023年には、RNAの構成要素である核酸塩基の一つ、ウラシルの検出も報告されました。
さらに2026年3月には、DNAやRNAを構成する5種類の核酸塩基が、リュウグウの試料からすべて検出されたと報告されました。アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルという分子です。

見つかったのは、DNAやRNAそのものではなく、その構成要素です。有機物は生命活動がなくてもつくられるため、これを「小惑星で生命が見つかった」と受け取ることはできません。
核酸塩基は、それ以前から隕石でも報告されていました。2022年には、炭素質隕石から5種類すべてを検出した研究が発表されています。リュウグウでの成果は、採った場所が分かり、地球の物質の混入を抑えて管理された試料でも、これらの分子を確認できたことに意味があります。
微量な物質を調べるには、試料を慎重に保管するだけでなく、分析中に混じったものではないかを確かめることも必要です。2026年の研究では、試料を入れずに同じ分析操作を行う比較や、原理の異なる方法での照合を行い、検出結果を検証しています。
「見つかった」という一言の裏には、どこから来た物質なのかを確かめる、こうした積み重ねがあります。
試料を調べることで、私たち自身の何が分かるのか
地球には水があり、生命が存在しています。では、その水や生命の材料は、どこでつくられ、どのように集まったのでしょうか。
リュウグウの試料を調べることで、宇宙にある小さな天体がどのような水や有機物を持ち、それらがどんな反応を経験したのかを、具体的に考えられるようになります。
たとえば、同じ水素でも、普通の水素と少し重い水素があります。こうした「同位体」の割合や、有機物の種類・組み合わせを、地球の物質や別の小惑星の試料と比べます。共通する特徴と違いから、材料の起源や変化の道筋を絞り込んでいくのです。
小惑星などが、水や有機物を初期の地球へ運んだ可能性も、そのようにして検討する仮説の一つです。ただし、材料が存在することと、それが集まって生命になることの間には、まだ解くべき問題があります。試料の分析は、地球や生命の起源へと続く長い道のりのうち、確かめられる部分を一つずつ増やす研究なのです。
まとめ:光から立てた予想を、石で確かめる
リュウグウが選ばれたのは、反射する光からC型と分かり、水や有機物、太陽系初期の情報が期待できたことに加え、試料を地球へ届けられる軌道にあったからです。
地上から光を調べ、近くへ行って観測し、石や砂を持ち帰って分析する。この段階を重ねることで、遠くの小さな点だった天体から、水と石の反応や、生命の材料につながる分子の存在が見えてきました。
「なぜ、わざわざ石を持ち帰るのか」。その石を調べることが、私たちの地球や、そこに生命が生まれるまでの材料の歴史を知ることにつながるからです。
持ち帰った約5.4グラムは、ただの旅の記念ではありません。これからも新しい問いを向けられる、太陽系から届いた研究の材料なのです。
参考にした情報
資料確認日:2026年11月8日。
JAXA はやぶさ2プロジェクト「『リュウグウ』ってどんな小惑星?」(選定前の観測と、C型・往復軌道という条件)https://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20180323/
JAXA/ISAS「はやぶさ2とリュウグウ」(観測装置、探査・採取の時系列)https://curation.isas.jaxa.jp/research/hayabusa2/
JAXA「初期分析 化学分析チーム 研究成果の科学誌『Science』論文掲載について」(元素組成と水による変化)https://www.jaxa.jp/press/2022/06/20220610-2_j.html
JAXA「初期分析 石の物質分析チーム 研究成果の科学誌『Science』論文掲載について」(母天体の歴史、鉱物中の液体の水)https://www.jaxa.jp/press/2022/09/20220923-1_j.html
JAXA/ISAS「リュウグウ試料の受け入れ準備と今後の活動予定」(回収量と汚染を抑える試料管理)https://www.isas.jaxa.jp/feature/special_issues/haya2/haya2_17.html
JAXA/ISAS Cosmos「小惑星リュウグウからのサンプルリターン:2023年度までのまとめ」(試料帰還と地上分析、地下物質の採取)https://cosmos.isas.jaxa.jp/ja/the-sample-from-asteroid-ryugu-summary-early-2023-ja/
JAXA/ISAS「リュウグウの石からわかってきたこと」(始原性、現地観測と分析の関係、研究の目的)https://www.isas.jaxa.jp/feature/forefront/250225.html
JAXA「初期分析 可溶性有機物分析チーム 研究成果の科学誌『Science』論文掲載について」(アミノ酸などの検出と非生物的な生成)https://www.jaxa.jp/press/2023/02/20230224-1_j.html
JAMSTECほか「小惑星リュウグウ試料から5種すべての核酸塩基を発見」(2026年3月の分析結果)https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20260317/
JAMSTECほか「炭素質隕石から遺伝子の主要核酸塩基5種すべてを検出」(2022年の隕石分析)https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20220427/
JAMSTECほか「小惑星リュウグウに核酸塩基とビタミンが存在!」(2023年のウラシル検出と分析の検証)https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20230322/
JAXA/ISAS「小惑星探査機『はやぶさ2』」(カプセル帰還後の拡張ミッション)https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/current/hayabusa2.html


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