年功序列や終身雇用、一見聞くと日本型の素晴らしい制度だと思うかもしれません。確かに経済成長している時は、それが素晴らしい制度でした。しかし、経済成長が止まった日本では、この制度が害になり、働きやすい労働市場になることを阻害しています。
その理由について、今回の記事では見ていきたいと思います。
働きやすい労働市場とはどんなものか?
まずは働きやすい市場が、どのようなものかを見ていきましょう。
少し考えてみてください。
『働きやすい労働市場ってなんだろう?』
給料が良いとか、残業が少ないとか、そう思われるかもしれませんが、それは『職場』であって市場ではありません。働きやすい労働市場を整えることと、働きやすい職場にすることは、似ていますが違います。
ただ、働きやすい労働市場を整えていけば、働きやすい職場もどんどん増えていきます。その理由は、この記事を最後まで読めばわかるはずです。
『働きやすい労働市場』にするために大事な視点は2つあります。
- 同一賃金同一労働
- 自分の強みが出せるところで働くことができる
の2つです。それぞれ見ていきましょう。
同一賃金同一労働
これはよくニュースになっているので、ご存知の方も多いと思います。
同じ仕事内容であれば、同じ賃金がもらえるということですよね。
よく言われるのが、同じ職場で同じ仕事をしているのに、正規労働者と非正規労働者では給料の格差があるというやつです。
これは非正規労働者からしてみれば、不満でしかありませんよね。「なんで同じ仕事なのに、給料が俺の方が低いんだよ!」と。
これでは非正規労働者が仕事を頑張る理由がないです。
非正規労働者「どうせ仕事を頑張ったって、どうせ給料は増えないし、正規労働者の給料に追いつくこともできないんだ。頑張るだけ無駄だよね。」
これでは生産性が上がりません。その人の能力を十分活かせない環境はよくないですよね。ただでさえ日本の労働生産性は先進国の中でも低いと言われてるのですから。
このほかにも、同じ仕事内容だけど、職場が違うだけで給料の格差が生じています。例えば同じ仕事内容なのに、A社では月20万円、B社では月18万円だとします。
ならばB社で働いている人は、A社に転職したいはずですが、「前の仕事なんでやめたの?え?給料?そんな理由じゃ雇えないなぁ」という、風潮が日本にはあります。お金で働く場所を選ぶのはタブーとされてるんですね。
本来なら、より仕事ができる人が高い給料をもらうべきなのに、それとは違う価値基準を日本は置いているのです。
これでは転職しよう!って気持ちにはなりませんよね。これが労働の流動性の低下を下げている一因です。もし、簡単に転職できるならば、
B社「給料を上げないとみんなA社にいっちゃうな・・・給料上げようか!」となり、自然にA社もB社も給料が同一になっていくはずなのです。
つまり、同一賃金同一労働にならない原因は、労働の移動の自由が認められていないからです。
じゃあ次の『自分の強みが出せるところで働くことができる』を考えていきましょう。
自分の強みが出せるところで働くことができる
自分の強みが出せるところで働くことができるといことは、つまり『適材適所』ということですね。
働き手が自分の能力を発揮するためには、自分にあった職場で仕事をする必要があります。例えば、頭を使うのは得意だけど、コミュニケーションはちょっと苦手という人が、研究職ではなく、営業担当になったら辛いだけですよね。
その人にとっても辛いですし、会社にとっても、生産性が高くなるとは言えません。
せっかくの能力があるのに、それを活かせないところで働くのはその人にとっても、企業にとっても、日本にとってもマイナスなのです。
じゃあ「転職すれば?」って話になりますけど、転職を容易に認める風潮が日本にないことは先ほど言った通りです。
それにある程度の年齢になっときに、会社の業績の悪化で倒産などが起こったとしても、転職が簡単ではなければ、その人が今まで培ってきた経験や能力が使えなくなってしまいます。
『自分の強みが出せるところで働くことができる』ためには、働く人の移動の自由が不可欠なんですね。
そのための制度設計をしていかなければ、日本の労働問題を解決することはできません。
日本の労働市場の流動性が低い理由
転職など、仕事の移動の自由がない、つまり労働市場の流動性が低いことは、日本経済に大きな影響を与えます。
- 頑張っても頑張らなくても仕事内容の変化が乏しい
- 頑張っても頑張らなくても給料は一定
労働市場の流動性が低いということは、働くことの意欲、そして自分の能力を高めようとするモチベーションを低下させます。これが日本の生産性が低い理由の1つなのです。
では本題の、日本の労働市場が低い原因となっている『終身雇用』と『年功序列』をみていきましょう。
終身雇用
終身雇用は今までとても利点がありました。
『今まで=日本が成長し続けていた時代』
皆が同じように給料がアップし、働けば働くだけ会社も成長するし、日本が成長していた時代です。
労働市場も当然売り手市場で、就職活動に苦労などはない時代でした。誰もが就職できて、誰もが毎年給料が上がって、リストラの心配がない時代です。
しかし、今は日本の経済成長率が横ばいの状態です。
誰もが就職できるわけではなく、誰もが毎年給料が上がるわけでもなく、リストラの心配をしないといけない時代です。
『終身雇用』がどれだけ意味があるのでしょうか?
(ちなみに、女性は子どもを産むという理由で、女性には終身雇用は適用されていません。男女格差は昔から大きかったのです。)
年功序列
年功序列は終身雇用とセットの制度で、言うなれば若者を黙らせる制度です。
例えば
若者「あのおっさんより、俺の方が能力高いけど、なんで俺の方が給料低いんだよ!!」
会社「まぁまぁ、君もあのくらいの歳になれば、同じだけ給料がもらえるんだから、今は我慢しといてよ。そんな能力で給料が変化するより、みんなで仲良く働きながら、会社と日本の成長とともに、給料が上がっていけばいいじゃない」
若者「それもそうだな。この会社があるのは、あのおっさんが若いときに頑張ってくれたおかげだもんな。」
と、納得させることができます。
でも今は、いくつになっても、そんなに給料が上がらないんですよね。
『年功序列』がどれだけ意味があるでしょうか?
二つの制度の害がもたらすもの
今見てきた
- 終身雇用
- 年功序列
この2つの制度がもたらす害を考えていきます。
一言で表すと、この2つによって『格差』が拡大しています。
この変動が激しいグローバルな時代では、終身雇用と年功序列が守られている会社に入ることができるかどうか?で、給料に大きな差が生まれるようになりました。それがたとえ、同じような仕事をしていてもです。
そして、どちらかの会社に入ったら最後、労働市場の流動性が低い日本では、そのままの状態になってしまうのです。
つまり、同一労働同一賃金ではないので、同じ仕事をしていても、給料がたくさんもらえる一部の人と、給料が少ないたくさん人に分かれました。
- 正規労働者と非正規労働者の格差
- 男女格差
- 大企業と中小企業の格差
- 公務員と民間の格差
- 学歴の格差
などなど、同一賃金同一労働ではなく、労働市場の流動性がない社会では、様々な面で格差が固定化されてしまうのです。
給料の差
みんなが気になる給料の差についてみて見ましょう。
(データは総務省統計局の公務員の給与と、財務省の法人企業統計を参考にしています。)
- 大企業:平均約710万円
- 中小企業:平均約420万円
- 公務員(国家と地方合わせて):880万円
これ、公務員がもらいすぎと叩かれても仕方がありませんね。中小企業の平均の2倍はもらってるんですから。
もしも、中小企業で働いている人の2倍の生産性を公務員の人が出しているならば、納得するかもしれませんが、果たしてそうでしょうか?
中小企業と大企業を比べてもそうです。
同一賃金同一労働とはかけ離れた世界が現実にはおこっています。その人の能力ではなく、働く場所によって給料に大きな差が出るのですから。
民間企業であれば、売り上げに対する給料をもらっているので、まだ納得がいくかもしれませんが、公務員の給料はどうして決まっているのでしょうか?これは、バブル時代の大企業の給料の平均を公務員の給料にしているのです。(バブル時代では公務員になるやつはバカだと言われていました。理由は給料が少ないからです。それで公務員側の不満が溜まって、給料がアップしたんですね。)
バブルは弾け、日本の経済成長はストップし、格差が広がっている中、なぜ公務員の給料が昔のままを維持しているのかは不思議でなりませんね。
今の時代、一流大学を出て、大企業か公務員になる人が圧倒的に得になります。そして、その人たちは自分の身分を守るため、同一賃金同一労働には反対するので、日本の生産性は高まらないままなのです。
今の日本は
- 男に生まれるか女に生まれるか
- バブル期に楽して就職するか、就職氷河期に就職するか
- 一流大学に行けるような家庭環境に生まれるか
など、『運』で全てが決まるような制度のままなのです。
労働市場を流動化し格差をなくすためには
格差は無くしたいですよね?そうは思いませんか?
例えば私が一番関心がある『教育分野』ですが、ここにも格差があります。
『教育格差』って呼ばれているんですが、簡単に言ってしまうと、頭が良くて高収入の親の子どもは、良い塾にも行かせてもらえるので、一流大学に入り、一流の会社に入社し高収入になるけど、低収入の親の元に生まれた子どもは・・・ってことです。
教育格差は結局は親の所得の格差からきているので、教育格差をなくすためには、親の収入の格差を無くすしかありません。
じゃあ収入格差を無くすためには、今まで見てきたように、労働市場に流動性をもたせる必要があります。そのために、
- 終身雇用をやめて、職場の移動を気軽にできるように
- 年功序列をやめて、能力中心に(頑張ったぶんだけ給料もアップ)
日本風の評価ではなく、外資系の業務の客観的評価にシフトしていく必要があります。
でもこれは、厳しい一面があるといのは理解してもらえると思います。歳をとるだけで、能力を磨かない人はいつまでたっても低収入だからです。
あなたはどちらが良いと思いますか?
流動性がない社会では、大企業に入れるか入れないか、公務員になれるかなれないか、そこが勝負の分かれ目です。
流動性がある社会では、いつでも挽回が効きます。
今、大企業に勤めている人や、公務員の人は前者を選ぶかもしれませんね笑。でもそれは普通の考えだと思います。
頑張って大学受験をして良い大学に入ったんだし、努力して公務員試験に受かったんだから、良い待遇をもらえるのは当然だと考えるのが普通でしょう。
でも、それは格差の上側の人の意見だったりします。例えば、下側に生まれた人は、大学に行くっていう概念がなかったり、塾に行くためのお金がなかったり、勉強ができる環境じゃなかったりするんですね。
もちろんそういう環境に生まれても、一流大学に行って大企業に入る人もいます。しかし、それはごく少数の人ですよね?
だったら、そういう格差の下側に生まれて、大学にも行けなかったけど、ある時努力をして良い待遇の会社に入ることができるような社会にしていきませんか?
だから、終身雇用や年功序列の制度を廃止するとなった時に、もっと前向きな気持ちでいて欲しいのが私の願いだったりします。
それにね、この二つの制度がなくなっても大丈夫ですよ。そこまで下側の人の猛追があるってわけではないですし笑。それに、自分の努力や能力次第で、給料がどんどん上がって、やりがいのある仕事を任されたりするのって、とても楽しいことだと思います。
努力して成果を出して、人から頼られるような人間になるのは、素晴らしい人生だと思います。また、今やってる仕事に飽きたら、他の仕事に気軽に移れるような環境が整うってことですしね。
まとめ
- 格差を無くすためには労働市場の流動化が必要
- 終身雇用・年功序列が労働市場の流動化を阻害している
追記:終身雇用・年功序列のもう一つのマイナス面
『終身』雇用と言われていますが、実際は『終身』ではなくて『定年』雇用です。
60歳を超えたら、おさらばってことですよね。
でも、なんで60歳なのだろう?なんで定年がきたら仕事を辞めなくてはならないのだろう?と考えたことはありませんか?
確かに、昔みたいに平均寿命が60歳であれば仕方がありません。でも今は平均寿命が80歳を超えます。60歳付近で体が悪くなる人もいれば、まだまだ元気な人だっているのですから、働くことができる健康状態と働きたいという意思があるのであれば、働いて欲しいと思います。
しかし、企業側としては、「働かないでください。早く辞めてください。」と言いたい気持ちがあるのです。その理由を以下に書いていきます。
新入社員として働く最初の数年は、給料に見合わないお給料をもらうことになるでしょう。言い換えれば、企業が負担する期間です。
しかし、仕事も覚え、人間関係が構築できたなら、どんどん生産性が上がっていきます。そうなると今度は会社が得をする期間で、この期間が長ければ長いほど、会社にとって年功序列はお得な制度なのです。
なぜかというと、その人がどれだけお金を生み出そうと、決まった以上の給料は払わなくて良いからです。
しかし、ある一定の年齢に達すると、生産性は落ちてきます。体力の低下や科学技術の進歩についていけなくなった時です。パソコンやスマホを使いこなせない、50代の事務員がどれだけ高い生産を発揮できると思いますか?
そうなると、また企業が損をする期間が増えていきます。
だから『定年』という区切りで、生産性の高くない社員に辞めてもらうのは企業にとってありがたいことなんです。
定年まで勤めさせてくれる企業は優しいものです。窓際族に追い込み自己退職を迫ったり、40代や50代でリストラされる人なんてのも普通にいますからね。
これの根本原因は年功序列です。年齢によって給料が上がっていくからダメなのです。一番生産性が高い時にこそ、給料が最も高くあるべきで、生産性が低くなるのであれば、給料も下がっていくべきなのです。
そうすれば企業にとっても負担は減るので、『定年』というおかしな制度はなくなります。
年功序列がなくなり、給料が下がったとしても、それに見合う生産性を発揮できるのであれば、歳をとったとしても、まだまだ働くことができます。
成果主義と聞くと、私たち日本人はビビってしまうかもしれませんが、成果主義になることで定年はなくなり、いつまででも働くことができる社会になっていきます。
「あなたにはこの給料は見合いません。ということで、会社はあなたを必要としていません。」
こんなこと言われるのきついですよね?
会社一本で生きてきた人(ほとんどの人がそうなる)は、『会社=社会』と言っても過言ではありません。会社で必要なくなるということは、社会で必要ないと言われてるようなものです。
そんなのって辛すぎますよね。
いつまででも社会と接しながら生きることが、その人の身体的にも精神的にも健康をもたらします。
それに、財政再建のために、厚生年金の支給開始を65歳へと引き上げる議論がされていますしね。60歳で定年が迎えれる世の中は、今の若者世代には残っていません。
『働けるうちは、働きましょう!』
これが私たちが目指すべき社会です。
歳をとれば、体力の低下は避けることができませんが、脳の力は衰えないというデータも出てきています。結局は脳を使わないから衰えるだけで、使っていけば衰えないんですね。希望の持てる研究成果だと思います。
- 労働市場の流動性
- 柔軟な年金支給
- 健康寿命を伸ばすための工夫
この3つがセットになることで、高齢者でも活躍できる社会を作ることができるはずです。
また追記することがあれば、どんどん書いていきます〜。
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