今さら聞けない粒子加速器。目に見えない粒子をぶつけて、何が分かるのか

「粒子をぶつけると、何がわかる?」の見出しと、検出器の中央で二つのビームが衝突し、粒子の軌跡が広がる図。加速器で物質と宇宙を探る記事の表紙。 科学・歴史・文化
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粒子加速器は、電子や陽子などの小さな粒子に、電場を使ってエネルギーを与える装置です。

名前から、ものすごい速さで粒子を走らせる機械だということは想像できます。ところが、その先が少し不思議です。わざわざ巨大な装置を造って粒子をぶつけ、一瞬で起こる出来事を調べる。それで、目に見えない物質の仕組みが分かるのでしょうか。

加速器には医療や物質の研究などさまざまな用途がありますが、この記事では粒子を衝突させて調べる実験を中心に見ていきます。

宇宙から届いた高エネルギーの宇宙線「アマテラス粒子」を扱った記事では、自然界で粒子がどこまで加速されるのかを考えました。今度は、人間が粒子を加速する側に回ります。しかも、この地上の実験は、宇宙から来た粒子の観測を読み解く助けにもなっています。

まずは装置の部品よりも、「なぜ、ぶつけるのか」から見ていきましょう。

粒子をぶつけると、何が分かるのか

左に衝突後の飛ぶ方向が異なる三つの散乱例、右に新たな粒子が生まれる例を並べた模式図。反応を調べることと粒子を生み出すことを示す。

時計の中身を知りたければ、分解して部品を見ることができます。粒子も、ぶつけて壊せば中身が出てくる。そう考えると、加速器の目的は分かりやすいかもしれません。

ただ、粒子の衝突で起こるのは、それだけではありません。もともと中に入っていた部品を取り出すだけでなく、新たな粒子がその場で生まれることもあります。

衝突で調べられることは、大きく分けて二つあります。

一つは、粒子同士がどう影響し合うかです。ぶつかった粒子がどの方向へ、どれほどのエネルギーで飛んでいくのか。どのような反応が、どれくらいの割合で起こるのか。こうした違いから、物質の内部構造や、粒子の間に働く力の性質を調べられます。

粒子同士が影響を及ぼし合うことを「相互作用」といいます。衝突前の条件をそろえて何度も測定すれば、相互作用についての理論の予想が、実際の結果と合うかを確かめられるのです。

もう一つは、衝突のエネルギーを使って粒子を生み出し、その性質を調べることです。

ここで不思議なのは、ぶつけた粒子よりも、ずっと重い粒子が生まれる場合があることです。たとえば、欧州の研究機関CERNの大型加速器LHCで発見されたヒッグス粒子は、陽子の約130倍の質量を持っています。

「軽いもの同士をぶつけたのに、どうして重いものが出てくるの?」と思いますよね。

その鍵になるのが、加速器で粒子に与えたエネルギーです。質量には、それに対応するエネルギーがあります。衝突前の粒子が持つエネルギーの一部が、新たに生まれる粒子の質量として現れるため、もとの粒子よりも重い粒子を作れるのです。

陽子には内部構造がありますが、ヒッグス粒子がその部品として詰まっていたわけではありません。衝突によって新たに生まれた粒子です。

では、エネルギーをどんどん高めれば、どんな粒子でも作れるのでしょうか。

そうとも限りません。反応の前後でエネルギーや電気の量などの合計が変わらないという「保存則」を満たす必要があります。また、条件が整っていても、起こりやすい反応と、めったに起こらない反応があります。

重い粒子を生み出せるだけのエネルギーがあっても、衝突のたびにその粒子が生まれるとは限らないわけです。

だから、加速器には二つの工夫が必要になります。目的の反応が起こり得るところまでエネルギーを高めること。そして、珍しい反応も調べられるよう、十分な回数の衝突を積み重ねることです。

ところで、ここまで「速さを上げる」ではなく、「エネルギーを高める」と説明してきました。なぜでしょうか。

粒子は、エネルギーを与えると速くなります。ただし、電子や陽子のように質量のある粒子は、光の速さには到達できません。光速に近づくにつれて、さらにエネルギーを与えても、速さはわずかしか増えなくなります。

そのため、どちらも「ほぼ光速」で飛んでいても、持っているエネルギーには大きな差があります。新しい粒子を生み出す実験で重要なのは、単に速く走らせることだけでなく、衝突に使えるエネルギーをどこまで高められるか、という点なのです。

手でつかめない粒子を、どうやって押すのか

上段は電場で粒子のエネルギーが増す図。下段は磁場中で正の電荷を持つ粒子が円弧を描き、進む向きと直角に中心向きの力を受ける模式図。

粒子にエネルギーを与えるといっても、手で押したり、何かで引っ張ったりするわけにはいきません。そこで利用するのが、粒子の持つ電気です。

電子はマイナスの電気を、原子核をつくる陽子はプラスの電気を持っています。この電気を「電荷」といいます。

電荷を持つ粒子に力を及ぼすのが「電場」です。粒子の進む向きに力が働くように電場をかければ、粒子にエネルギーを与えられます。

大型の加速器では、「加速空洞」と呼ばれる金属製の空間に高周波の電波を送り込み、その中に生じる電場を利用します。電場は時間とともに変わるので、粒子が通るタイミングを合わせ、進む向きに力を受けられるようにします。

ブランコも、タイミングを合わせて押すと、大きく揺れるようになりますよね。粒子の動きそのものがブランコと同じわけではありませんが、タイミングを合わせてエネルギーを渡す、という点は似ています。

ただ、エネルギーを与えるだけでは、粒子を実験したい場所へうまく届けられません。進む方向を整え、粒子の集まりが広がりすぎないようにする必要もあります。そこで使うのが磁石です。

磁石が作る「磁場」は、電荷を持って動いている粒子の進む向きを曲げます。この働きを利用して、粒子をカーブに沿って走らせたり、粒子の集まりを細くまとめたりします。

ここで、電場との大事な違いがあります。磁場から受ける力は、粒子が進む向きに対して直角に働きます。進路を横へ曲げる力なので、その力自体が粒子にエネルギーを与えるわけではありません。

電場でエネルギーを与え、磁場で進路を整える。この二つを組み合わせることで、粒子を高いエネルギーにしながら、狙った場所へ運べるのです。

なぜ巨大な装置にして、何度もぶつけるのか

同じ種類の陽子を異なるエネルギーで比較した模式図。同じ磁場では、低いエネルギーの円軌道は小さく、高いエネルギーの円軌道は大きくなる。

LHCは、フランスとスイスの国境をまたぐ、一周約27キロメートルの円形加速器です。目に見えない小さな粒子を扱うのに、なぜこれほど大きな装置が必要なのでしょうか。

その理由を考える鍵は、粒子を「曲げる」ことにあります。

円形の加速器では、磁石を使って粒子の進路を曲げ、同じコースを周回させます。ところが、陽子のエネルギーが高くなるほど、同じ強さの磁場では小さなカーブを曲がれなくなります。

もっと強い磁場を作れれば小さく曲げられますが、磁石の技術にも限界があります。そこで必要になるのが、大きく緩やかなカーブです。高いエネルギーの陽子を走らせるため、リングも大きくなるのです。

では、そもそもなぜ円形にして、周回させるのでしょうか。

利点の一つは、同じ加速区間を繰り返し使えることです。一度に与えられるエネルギーには限りがあるため、粒子を何度も通し、少しずつエネルギーを高めていきます。

一方、直線型の加速器は、粒子が進む先に加速区間を並べる方式です。円形なら同じ区間を使い回せますが、粒子を曲げる際にはエネルギーを失うこともあります。その影響は粒子の種類によって違うため、円形がいつも有利とは限りません。加速する粒子や目標のエネルギー、実験の目的に合わせて方式を選びます。

こうしてエネルギーを与えた粒子も、途中で空気の分子にぶつかってしまっては、実験に使う前に失われてしまいます。そのため、粒子が通る管の中は、気体をできるだけ取り除いた真空に保たれています。

「ぶつけるための装置」ですが、狙った場所に届くまでは、余計な衝突を避けて運ばなければならないのです。

さて、高いエネルギーの粒子を用意できても、一度ぶつければ目的の反応が起きるとは限りません。珍しい反応を調べるには、衝突を何度も起こして、十分な記録を集める必要があります。

LHCでは、陽子を一個ずつ狙って発射するのではなく、たくさんの陽子をひとまとまりにした「バンチ」を使います。いくつものバンチを同じ進路に沿って走らせたものが、粒子の流れである「ビーム」です。

反対向きに走る二つのビームを、決められた場所で交差させます。ただし、バンチ同士がすれ違っても、中の陽子が一斉に衝突するわけではありません。大半は衝突せずに通り過ぎます。

そこで、衝突の直前に磁石でビームを細く絞ります。同じ数の陽子を狭い範囲へ集めれば、相手の陽子と衝突する機会を増やせます。

衝突せずビームに残った陽子は、そのままリングを周回します。そして再び、反対向きのバンチと出会います。こうして何度も衝突の機会をつくり、めったに起こらない反応の記録を集めていくのです。

一回の衝突で使えるエネルギーを高めることと、衝突の数を増やすこと。この二つは、別々の工夫です。LHCでは、加速空洞の電場で粒子にエネルギーを与え、磁石で進路を曲げたり、ビームを細く絞ったりします。大きなリングの中でこうした働きを組み合わせ、高いエネルギーの粒子を運びながら、何度も衝突の機会をつくっているのです。

一瞬で消える粒子を、どうやって確かめるのか

二つの光子を捉えた複数の記録から質量を計算し、件数を集める模式図。背景の周囲でばらつく点と、特定の質量付近の小さな山を示す。

粒子をぶつけたら、次は結果を読む番です。そこで働くのが、加速器とは別の役割を持つ「検出器」です。加速器が衝突の条件をつくり、検出器が、そこから出てくる粒子の痕跡を記録します。

衝突の周囲に置かれた検出器には、何層もの測定装置があります。通過する粒子が残した小さな信号から通り道を調べたり、粒子が装置に渡したエネルギーを測ったりします。磁場の中で軌跡がどれくらい曲がったかも、粒子の運動を知る手がかりです。

ニュースで見かける、衝突点から色とりどりの線が伸びた図は、こうした測定から再構成されたものです。目の前を飛ぶ粒子を、普通のカメラで撮影した写真とは違います。

ここで、ヒッグス粒子の発見を例に考えてみましょう。

ヒッグス粒子は、物質の基本的な粒子である「素粒子」の性質を説明する理論から、その存在が予想されていました。ただし、その理論から質量の値まで決まっていたわけではありません。存在するかどうかと、どれほどの質量を持つかを、実験で確かめる必要がありました。

ところが、衝突でヒッグス粒子ができても、ごく短い時間で別の粒子へ変わってしまいます。こうした変化を「崩壊」と呼びます。研究者が測るのは、ヒッグス粒子そのものが長く飛んだ跡ではなく、崩壊によって生まれた粒子です。

その手がかりの一つが、二つの「光子」です。光子は光の粒で、ここでは非常に高いエネルギーを持っています。ヒッグス粒子が二つの光子へ崩壊する割合は、実際に見つかった質量の場合、理論から約0.2%と計算されます。ヒッグス粒子が1,000回崩壊したうち、およそ2回という割合になります。珍しい崩壊ですが、二つの光子はエネルギーを精密に測りやすく、探すための有力な手がかりになりました。

検出器で二つの光子のエネルギーと飛んだ方向を測ると、「この二つが一つの粒子から生まれたとしたら、元の粒子の質量はいくらだったか」を計算できます。光子一つ一つのエネルギーをそれぞれ固定して比べると、二つの飛ぶ方向の開きが大きいほど、計算される質量も大きくなります。二つの光子のエネルギーの合計には、元の粒子の質量に対応する分と、全体として動く分のエネルギーが含まれます。飛んだ方向も測ることで、この二つを区別して質量を求められるのです。

しかし、二つの光子が見つかっただけで「ヒッグス粒子ができた」とは言えません。ヒッグス粒子が関わらない別の反応でも、同じように二つの光子が出てくるからです。しかも、集めた二光子の記録では、そうした別の反応の方がはるかに多いのです。

そこで、たくさんの衝突について同じ計算を行い、得られた質量の値を並べます。本当に同じ種類の粒子が崩壊しているなら、その質量に対応する場所へ結果が集まるはずです。測定には幅があるため、一点にぴったり重なるのではなく、小さな山のように現れます。

ただし、グラフに山が見えたら発見、というほど簡単でもありません。

研究者はまず、探している新粒子がなくても起こる反応を調べます。こうした反応や、別の粒子を光子と見間違える影響などを「背景」と呼びます。ヒッグス粒子の崩壊に由来しない光子の組からも質量を計算できますが、その値は、ここで探す質量の範囲では幅広く、滑らかに分布します。研究者は実際のデータや計算を使って、背景だけならどんな分布になるかを見積もります。

その予想と比べて、特定の質量の近くに結果がどれくらい多く現れているかを調べます。偶然のばらつきで説明できないか。測定器のエネルギーの測り方がずれていないか。背景の見積もりを変えると結論が変わらないか。こうした不確かさを含めて確かめる必要があります。

さらに、別の崩壊の仕方を調べた結果も照合します。LHCでは、ATLASとCMSという別々の検出器と研究チームが、それぞれのデータを解析しました。両者が独立に、ほぼ同じ質量の位置で、背景だけの予想を上回る結果を見つけたことも重要でした。

2012年に発表されたのは、ヒッグス粒子の予想と整合する新しい粒子の発見です。その後も性質の測定が続き、ヒッグス粒子としての理解が確かめられてきました。

たった一度の派手な衝突を見て、正体が分かったわけではありません。起きた出来事を大量に集め、何も新しいものがない場合の予想と比べ、違いを別の方法でも確かめる。加速器で「粒子を発見する」という言葉の中には、ここまでの仕事が含まれています。

地上の衝突実験が、宇宙線の観測を助ける

宇宙線の空気シャワー観測と、地上の衝突でビームに近い前方へ飛ぶ粒子の測定を示す。両方をシャワーの計算モデルの検証へ結び付けた模式図。

加速器の研究は、新しい粒子を見つけることだけに限りません。すでに知っている粒子が、どのように生まれ、エネルギーを分け合うかを正確に測ることにも、大切な意味があります。

宇宙線の観測が、その一例です。

宇宙から来た高エネルギーの陽子や原子核は、大気中の原子核にぶつかります。そこで生まれた粒子がさらに反応し、粒子の数が次々に増えていきます。これが「空気シャワー」です。

地上の検出器で捉えるのは、このシャワーのうち、装置に届いた粒子です。最初に宇宙から飛び込んだ粒子を、そのまま受け止めているわけではありません。

そのため、観測された粒子の量や広がり方などから、元の宇宙線がどんな粒子で、どれほどのエネルギーを持っていたのかを推定します。ここで必要になるのが、粒子の衝突を計算するための「モデル」です。

元の粒子が大気に入ったら、どんな粒子がどれくらい生まれ、エネルギーがどう配られるのか。その過程を計算し、実際の観測と比べるわけです。結果から出発点を探るために、まず出発点から結果までを計算するのです。

ただ、モデルの予想が現実とずれていれば、元の宇宙線の推定にも影響します。そこで、人間が条件を整えて衝突させられる加速器の出番になります。

LHCで行われている「LHCf」という実験は、衝突後、ビームの進む向きからほとんどずれずに飛び出す粒子を測っています。

なぜ、その方向が大事なのでしょうか。高エネルギーの衝突では、前方へ飛ぶ粒子が、衝突前の粒子のエネルギーの大きな部分を運んでいきます。そのエネルギーがどんな粒子へ、どれくらい配られるかによって、続く空気シャワーの発達の仕方が変わるからです。

しかも、ビームの通り道に極めて近い、前方の狭い領域は、衝突点を取り囲む大型検出器では測りにくい場所です。LHCfはビームラインに沿った専用の位置から、そこへ飛び出す粒子を捉えます。どんなエネルギーの粒子が、どの方向へ出てくるか。その測定結果が、空気シャワーを計算するモデルを確かめ、改良する材料になるのです。

これは、冒頭で挙げた「粒子が互いにどう影響し合うのか」を調べる実験です。宇宙線による空気シャワーの全体をそのまま再現するのではなく、シャワーの予想を左右する相互作用を、地上で確かめているのです。

また、最高エネルギーの宇宙線が起こす衝突まで、LHCで同じ条件を再現できるわけでもありません。測定できた範囲を手がかりに、直接確かめられていないエネルギーや原子核の種類へ計算を広げる必要があり、そこには不確かさが残ります。

それでも、確かめられるところを実験で確かめる意味は大きいでしょう。地上の衝突で粒子の生まれ方を測ることが、宇宙から届いた粒子を読み解く土台になっています。

ぶつけた後まで含めて、加速器の実験

電場で粒子にエネルギーを与え、磁場で進路を整える。衝突の条件をつくり、検出器に残った信号を読む。そして、多くの結果を集めて、物理法則からの予想と照らし合わせます。

目に見えない粒子をぶつけて、何が分かるのか。

この記事で見た答えは、二つありました。新しい粒子が存在するかどうかと、粒子同士の反応がどのように起こるかです。ヒッグス粒子の例は前者に、LHCfの例は後者に当たります。存在を確かめ、反応の起こり方を測る。その両方が、物質や宇宙の理解を支えています。

小さな粒子をぶつけるのは、壊れたものを眺めるためだけではありません。衝突を通して、自然がどのように振る舞うのかを測るためです。目に見えない粒子から何が分かるかは、ぶつけた後に残る痕跡を、どこまで丁寧に読み解けるかにかかっています。

参考資料

以下の資料は2026年10月15日に確認しました。本文の話題ごとに、対応する資料をまとめています。

加速器の仕組みと衝突の条件

検出器とヒッグス粒子の発見

宇宙線とLHCf

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