氷に塩をかけると、氷が溶けていきます。ところが、氷と塩水を混ぜたものは、0℃より冷たくなることがあります。
氷が溶けているなら、温かくなっているはずでは? そう考えると、少し不思議に感じられます。
この理由は、次の二つに分けて考えると整理できます。
- 塩が水に溶けると、氷と液体がつり合う温度が下がる。 もとの温度では氷が溶ける方向へ変化します。
- 氷が溶けるには、エネルギーが必要になる。 そのエネルギーが氷や塩水などから供給されると、混合物の温度が下がります。
食塩と氷の組み合わせでは、条件が整えば約−21℃付近まで冷やせます。
「溶ける条件が変わること」と「実際に温度が下がること」。この二つを分けて考えると、道路の氷を溶かす塩が、アイス作りでは冷却に役立つ理由も見えてきます。
「氷は0℃」には条件がある

まず、氷そのものの温度は、いつでも0℃というわけではありません。冷凍庫の中の氷は、0℃より低い温度になります。
通常の大気圧で約0℃なのは、純粋な水と氷が、十分に熱をやり取りしてつり合っているときです。その状態に熱を加えると、温度はほぼ0℃のまま、氷が減って水が増えます。
氷が水に変わるには、融解熱が必要だからです。通常の大気圧で0℃の氷1gを0℃の水に変えるには、約334Jのエネルギーが必要です。同じ1gの水を約80℃分温めるのに相当する量です。温度が上がらなくても、状態を変えるために、それだけの熱を受け取っています。
この仕組みは、同じ0℃でも氷が水より飲み物を冷やせる理由で詳しく説明しました。今回は、その前提にある「純粋な水」という条件を変えて考えてみます。
塩が溶けると、0℃でのつり合いが変わる
まず、氷の周りに塩水ができる
ここでは話を分かりやすくするため、約0℃の氷と少量の水が一緒にある状態を考えます。そこに食塩を加えると、食塩が水に溶け、氷の周りに塩水ができます。
塩水は、純粋な水より低い温度で凍り始めます。このように、物質が水などの液体に溶けることで、凍り始める温度が下がる現象を凝固点降下といいます。
塩水になった後は、氷と液体がつり合う温度も、純水の場合の約0℃より低くなります。そのため、もとの約0℃の状態では氷が溶ける方向へ変化が進みます。
「水が凍り始める温度が下がる」ことと「氷が0℃より低い温度でも溶けうる」ことは、氷と液体がつり合う温度の変化を、凍る側と溶ける側の両面から見たものです。
なぜ塩が溶けると、凍り始める温度が下がるのか

食塩は水に溶けると、ナトリウムイオンと塩化物イオンに分かれて広がります。一方、水が通常の氷になるとき、その結晶には塩の成分が入りにくく、主に水分子が並びます。
塩水から氷ができるときは、水分子とイオンが混ざり合った液体から、主に水分子だけが氷へ移ります。残されたイオンは液体のほうに集まるため、純粋な水が凍る場合とは、分子やイオンの分布の変化も異なります。
食塩が水に溶けて混ざることは、液体の状態を安定させる方向に働きます。そのため、氷と塩水がつり合うには、純水の場合より低い温度が必要になります。専門的には、分子やイオンの分布の仕方に関わる「エントロピー」を含めて説明する現象です。
水分子が別の物質になるわけではなく、氷と液体のつり合う条件が変わっています。
凍る温度が下がるだけで、実際の温度も下がる?

ここが、一番混同しやすいところです。
凝固点は「どの温度で凍り始めるか」という境目で、温度計が示す「いま何℃か」とは別です。 凍り始める温度が下がったからといって、液体が自動的にその温度まで冷えるわけではありません。
氷と塩水の混合物が実際に冷えるときには、氷の融解に必要なエネルギーが、氷や塩水、容器などから供給されています。状態を変えるためにエネルギーを使う分、混合物や容器の温度が下がっていきます。
外から熱がほとんど入らない条件でも、混合物自身が冷えることで、氷の一部を溶かすためのエネルギーを供給できます。周囲から熱が入る場合には、その熱も融解に使われます。
氷が溶けながら、全体の温度は下がる。 この二つは同時に起こります。
食塩が水に溶けるときの熱も関係する
食塩そのものが水に溶けるときにも、熱の出入りがあります。食塩の溶解は一般的な条件では吸熱で、この分も温度低下に関わります。氷がなくても食塩を溶かすことで温度が下がる場合はありますが、それと氷の融解を利用した冷却は区別して考えます。
ただし、氷と食塩で低温を作る仕組みを、この溶解熱だけで説明するのは不十分です。凝固点降下によって氷の融解が進み、その融解にもエネルギーが必要になる、という組み合わせが重要です。
道路の凍結防止剤には塩化カルシウムなども使われます。例えば無水の塩化カルシウムは、水に溶けるときに熱を放出します。食塩と同じく凝固点を下げる働きがあっても、溶けるときの熱の出入りは異なります。
道路では氷を溶かすのに、アイス作りでは冷やせる理由
道路の融雪とアイス作りでは、同じ仕組みの異なる面を利用しています。
| 用途 | 主な目的 | 仕組みのどこを利用するか |
|---|---|---|
| 道路の融雪・凍結防止 | 路面の氷を減らし、凍結を起こりにくくする | 凝固点が下がり、路面温度と濃度によっては0℃未満でも液体の塩水が存在できること |
| 氷と食塩を使うアイス作り | 材料を0℃より低い温度まで冷やす | 低温で氷が溶ける際に、容器を通して材料から熱を受け取ること |
道路では、氷ができにくい塩水を作る

冬の道路に塩類をまくのも、液体が凍り始める温度を下げるためです。路面の温度が0℃を下回っていても、その条件で液体の塩水が存在できれば、氷を溶かしたり、凍結を起こりにくくしたりできます。
ただし、低い温度ならどこでも効くわけではありません。塩水の濃度や路面温度によって効果は変わります。氷や雪が溶けて塩水が薄まると、再び凍ることもあります。
ここでの目的は、道路の温度を上げることではなく、氷ができる条件を変えることです。
アイス作りでは、材料の熱を外側の氷へ移す

氷と食塩を使うアイス作りでは、冷やす材料と、氷・塩水を別々の容器や袋に入れます。外側の氷が溶けるために、内側の材料から熱を受け取る仕組みです。
牛乳や砂糖を混ぜた材料は、純粋な水より凍り始める温度が低くなります。約0℃でつり合った純水と氷では、冷却温度が十分に低くありません。塩を加えることで、0℃より低い温度で氷が溶け、材料を冷やせるようになります。
熱の流れをたどると、次のようになります。
内側の材料から熱が出る → 容器の壁を通って外側へ移る → 外側の氷が溶ける。
内側では材料が凍り、外側では氷が溶けていく。一見すると反対の変化が、熱の移動でつながっています。冷却用の塩は外側の氷に加え、アイスの材料とは分けて使います。
冷凍庫から出したばかりの氷は、それ自体が0℃より低温なので、条件によっては塩なしでも材料を凍らせられます。
氷と食塩は何℃まで冷える? 配合と温度の関係

食塩を増やしても、際限なく冷やせるわけではありません。通常の大気圧で食塩と水が平衡にあるとき、液体の塩水が存在できる最低温度は約−21℃です。 これを共晶温度といいます。氷そのものは、冷凍装置などでさらに低温にできます。
実際に氷と食塩を混ぜたときの温度は、次の条件に左右されます。
- 氷・水・食塩の量と、それぞれの初めの温度
- 塩がどれくらい溶け、塩水がどの濃度になるか
- 氷の大きさや混ぜ方
- 容器や周囲から入る熱
配合の具体例として、日本化学会近畿支部の解説では、氷と食塩を質量比3:1で混ぜ、条件がうまく整えば−20℃まで下がる例を紹介しています。この比率は混ぜる前の氷と塩の質量の比で、できた塩水の濃度とは別です。到達温度は、配合に加えて初期温度や容器などの条件でも変わります。
温度と濃度は、冷える途中でも変わる
食塩がすべて溶けた後は、氷の融解で水が増えると塩水が薄まり、凍り始める温度は0℃に近づきます。溶け残っている食塩がある場合は、それがさらに溶けることもあるため、氷が溶けている間ずっと薄まり続けるとは限りません。
氷と塩水がともに残り、十分な時間がたって平衡に達すると、その時点の塩水の濃度に対応する温度でつり合います。ただし、周囲から熱が入れば氷の融解は続き、氷がなくなった後は液体の温度が上がります。実験で観察される温度は、こうした濃度の変化と熱の出入りの両方で決まります。
温度を確かめるときは、手で触れない

氷と食塩を混ぜて低温を作るものは、寒剤と呼ばれます。身近な材料でも、混合物や容器が非常に冷たくなり、皮膚に触れると凍傷のおそれがあります。
- 冷たさを手で比べたり、塩と氷を皮膚に押し当てたりしないでください。
- 温度を確かめるには、−25℃以下まで測れる温度計を使います。
- 冷えた容器にも素手で触れず、低温での使用に適した器具を使ってください。子どもが観察する場合は、大人が付き添います。
温度を測るときは、温度計の先端が容器の壁に直接当たっていないか、氷と塩水が混ざった部分に入っているかも確認しましょう。測る場所や時刻が違えば、読み取る温度も変わります。
まとめ:溶けたから温かくなった、とは限らない
凝固点降下は「氷と液体がつり合う条件」の話。融解熱は「氷を溶かすために必要なエネルギー」の話。この二つを分けると、道路の氷を溶かす働きと、アイスの材料を冷やす働きが、同じ仕組みから説明できます。
氷が溶けて小さくなっていても、温度が上がっているとは限りません。いま何℃かだけでなく、何が溶け、どこから熱が移動しているのかに目を向けると、氷と塩の不思議な振る舞いが見えてきます。
参考資料
日本化学会近畿支部「Q72 氷に塩を入れると、より冷たくなるのはなぜですか?」(融解熱と溶解熱、食塩と氷による冷却)
https://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-72.html
OpenStax『Physics』11.3 Phase Change and Latent Heat(氷の融解熱と水の温度上昇に必要な熱の比較)
https://openstax.org/books/physics/pages/11-3-phase-change-and-latent-heat
OpenStax『Chemistry 2e』11.4 Colligative Properties(溶液の凝固点降下と濃度、理想化した説明の範囲)
https://openstax.org/books/chemistry-2e/pages/11-4-colligative-properties
University of Illinois Urbana-Champaign, Physics Van「Lowering of Melting Point」(凝固点降下の熱力学的な説明と実際の温度低下。冒頭の改訂回答とFollow-Up #7)
https://van.physics.illinois.edu/ask/listing/9400
山口大学『Academi-Q』No.10「お菓子な化学実験 冷凍庫を使わないアイスクリームづくりに挑戦」(氷と塩の冷却、到達温度と扱い方)
https://www.yamaguchi-u.ac.jp/info/academi-q/back_number/academiq_no10/index.html
米国連邦道路局(FHWA)『Manual of Practice for An Effective Anti-Icing Program』Appendix A(食塩水の共晶温度、道路用塩類の性質。1996年刊行の保存資料)
https://www.fhwa.dot.gov/publications/research/safety/95202/004.cfm
信州大学繊維学部『実験・実習における安全の手引き』2026年度(氷と塩を使う寒剤の凍傷リスク)
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/docs/F_anzen2026ver02.pdf
国際化学物質安全性カード(ICSC 1184)「塩化カルシウム(無水物)」(水への溶解時の発熱)
https://chemicalsafety.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_card_id=1184&p_lang=ja&p_version=2
資料確認:2026年11月7日


コメント