平良達郎の日本人初UFC王者は、今回も届きませんでした。
UFC 328のフライ級タイトルマッチ。
王者ジョシュア・ヴァンに挑んだ平良達郎は、5ラウンドTKO負け。ヴァンが王座の初防衛に成功しました。
試合は現地時間2026年5月9日、ニュージャージー州ニューアークのプルデンシャル・センターで行われたUFC 328のコメインイベント。公式計量では、ジョシュア・ヴァン、平良達郎ともに125ポンドをクリアし、フライ級タイトルマッチとして正式に成立していました。
悔しい結果でした。
試合前、私は平良の2R一本勝ちを予想していました。
その予想は外れました。
ただ、試合を見終えて強く思ったのは、平良が何もできなかったわけではない、ということです。
むしろ1Rの平良はよかった。
テイクダウンを取り、マウントまで進み、勝ち筋は確かに見えていました。
でも、ジョシュア・ヴァンは強かった。本当に強かった。
倒されても背中を見せない。
マウントを取られても決定的なダメージを与えさせない。
フレームを作り、足を戻し、バタフライで立ち上がる。
そして2R以降、ジャブと圧力で平良の前進を止めていく。
今回の試合は、単純に「平良が崩された試合」ではなかったと思います。
平良が勝ち筋を作り、ヴァンがそれを受け止め、後半に上回った。
そういう試合でした。
本当にすごい試合でした。
結果:ジョシュア・ヴァンが5R TKOで王座防衛
まず事実を整理します。
ジョシュア・ヴァンは5ラウンド1分32秒、打撃の連打で平良を追い込みTKO勝ち。MMA Fightingは、ヴァンが平良のテイクダウンとグラウンドコントロールを何度も耐えしのぎ、5Rにボディから顔面へのコンビネーションでフィニッシュしたと報じています。
MMA Fightingのライブブログでも、平良は1Rと4Rにグラウンドで強い時間を作った一方、ヴァンが2R、3R、5Rで打撃のダメージを重ね、最終的に5Rでストップした流れが整理されています。
平良は負けました。
でも、何もできずに終わったわけではありません。
王者を何度もグラウンドに引き込み、マウントまで進み、勝機も作った。
それでも、ヴァンが最後に上回った。
だからこそ、余計に悔しい試合でした。
予想の答え合わせ:構図は当たった。でも勝敗は外れた
試合前の記事で、私はこう見ていました。>平良達郎はジョシュア・ヴァンに勝てるのか|日本人初UFC王者へ、鍵は「組む前」にある
平良が勝つなら早め。
ヴァンが勝つなら後半。
この構図自体は、試合に色濃く出ていました。
1Rは平良。
2Rからヴァンが流れを取り返し始める。
3Rはヴァンが強く押す。
4Rに平良がもう一度大きな勝機を作る。
5Rはヴァンが打撃で押し切る。
まさに「平良が序盤に勝負を作り、ヴァンが後半に力を増す」試合でした。
ただ、私はそこで平良が2Rまでに極め切ると予想していました。
そこが外れた。
なぜ外れたのか。
最大の理由は、ヴァンが倒されても終わらなかったことです。
平良はテイクダウンを取れました。
マウントまで行けました。
でも、そこから極め切れなかった。
大きなダメージを与えられなかった。
バックを取らせてもらえなかった。
ここが、勝敗を分けた一点だったと思います。
あの平良達郎にいいポジションを取らせてもなにもさせなかったヴァンがすごい。
1R:平良は王者に届きかけていた
1Rの平良は見事でした。
試合前に描いていた勝ち筋に近い展開を、自分の力で作り上げました。
遠い距離で入りを見せ、そこから組みに行き、テイクダウンを取る。
パスしてマウントまで進む。
この一連の流れは淀みがなく、平良らしさが凝縮されていました。
テイクダウンからパスガード、マウントへと体重を移していく動きの安定感。
膝を越えるタイミングの鋭さ。
ポジションを少しずつ進める感覚。
それは、UFCのフライ級王者に挑む選手として十分な質でした。
UFC公式が公開したコーチ視点のプレビューでも、平良のポジショナルグラップリングは高く評価され、悪いポジションに置かれた相手を粘着質にコントロールできる点が語られていました。1Rのマウント到達は、まさにその強みが形になった瞬間だったと思います。
この1Rを見た時点では、「平良がいける」と思った人は多かったはずです。
私もそう思いました。
ただ、ヴァンはここで決定的なものを与えませんでした。
マウントは取られた。
でも背中は見せない。
スクランブルでバックを取られるくらいなら、マウントを受け入れてでも致命傷を避ける。
そういう判断に見えました。
これは重要な点です。
平良の本当の怖さは、テイクダウンそのものより、相手が立とうとする瞬間に背中を取るところにあります。
バックを取って4の字で固め、チョークやパウンドで削る。
しかしヴァンは、そこを封じました。
マウントは与えても、バックは渡さない。
ポジションは取られても、決定的な展開には持ち込ませない。
この守りが、後の試合展開の土台になりました。
1Rだけ見ると、「これやっぱり2Rで勝つかな」と思っちゃいます。
ヴァンは「倒せば終わり」の相手ではなかった
今回、最も強く感じたのはここです。
ヴァンは、倒せば崩れるストライカーではありませんでした。
試合前から、テイクダウンディフェンスの強い選手だとは認識していました。
ただ実際の試合を見ると、「倒されない」だけではない。
倒されても立つ。
マウントを取られても戻す。
フレームを作り、バタフライガードに戻し、背中を見せずに回復する。
このグラウンドディフェンスが、非常に厄介でした。
力で強引に返す場面もありましたが、それだけではありません。
腰を押し、足を入れ、バタフライを使って平良に対応を迫りながら立ち上がる。
柔術的な逃げ方でした。
だから平良は、テイクダウンを取れたのに、ヴァンを終わらせられなかった。
「テイクダウンを取れなかったから負けた」のではありません。
「テイクダウンを取った後に、終わらせ切れなかった」のです。
ヴァンはただ打撃ができるだけの選手ではありませんでした。
「倒された後どうなるの?」っていう未知数の部分もしっかりと強かった。
これで格闘技歴5年って…
2R:試合の分岐点は右のダウンだけではない
2Rは、この試合の分岐点でした。
表面的に見ると、ヴァンが右でダウンを奪った場面が大きい。
もちろんそれは大きいです。
ただ、個人的には、その前の流れも同じくらい重要でした。
1Rでマウントまで取った平良は、相当なエネルギーを使っていたはずです。
テイクダウン、パス、マウント、コントロール。
グラップラーにとって、トップを制しているからといって楽なわけではありません。
しかもタイトルマッチ。
日本人初UFC王者になれる舞台。
1Rで手応えを掴んだからこそ、「ここで決めたい」という意識が出ても不思議ではない。
でも、ヴァンは凌ぎました。
そして2Rに入ると、ヴァンのジャブが当たり始めます。
このジャブが、見た目以上の効果を持っていました。
平良の前進を止める。
組みへの入りを封じる。
「距離があるはずなのに当たる」という感覚を植えつける。
ジャブで試合の空気が少しずつ変わっていき、その後の右でダウンが生まれた。
ここで主導権は大きくヴァンに傾きました。
なぜ平良はジャブをもらったのか
平良の方がリーチはありました。
遠い距離で戦えれば、ストレートやカーフが機能するはずでした。
にもかかわらず、試合が進むにつれてヴァンのジャブが刺さるようになった。
なぜか。
ヴァンのステップに、その理由があったと思います。
ヴァンは、後ろ足から距離を詰める入り方を使っていました。
相手との距離を測るとき、人は前足の位置を基準にします。
前足が遠ければ、まだ間合いの外だと認識しやすい。
しかしヴァンは、後ろ足を先に良い位置へ置いてくる。
前足同士の距離はほとんど変わっていないのに、もう打てる準備が整っている。
そこから前足が一気に出て、ジャブが届く。
平良からすれば、「まだ遠い」と判断した瞬間に、もうヴァンの拳が来ている。
手で距離を測っているのに、差し込まれる。
これは非常に嫌な感覚のはずです。
距離の認識がズレると、組みへの入りタイミングも狂います。
タックルに入ろうとすると打たれる。
前に出ると合わされる。
だから踏み込めなくなる。
ヴァンのジャブは単なる打撃ではなく、平良の組みへの入り口を潰す機能を果たしていました。
大橋ボクシングジムで鍛えている平良選手が、こんなにも距離感をバグらされてジャブをもらう展開になるとは思いませんでした…
平良反応悪くない?と感じた人が多いと思いますが、たぶんこれはヴァンのボクシング技術がすごい高いだけなんです。
平良のカーフは序盤に機能していた
一方で、平良にも機能していた武器がありました。
序盤のカーフキックです。
ヴァンが前足を出そうとするタイミングで刺さるカーフは、侵入を止める場面を作っていました。
「ヴァンの入りを遠い距離で止める」という試合前のプランとして、カーフは機能していました。
ただ、試合が進むにつれて、その蹴りは減っていきました。
スネへのダメージか。
被弾による余裕のなさか。
テイクダウンへの比重の変化か。
理由は定かではありません。
いずれにせよ、カーフが減ったことでヴァンが距離を詰めやすくなり、近距離の打撃戦に引き込まれる時間が増えました。
平良は遠い距離では相手の動きをよく見られる選手です。
しかし距離を潰されると、頭を振って捌くタイプではない。ブロッキングにも、まだ課題が見えました。
ヴァンはそこを突いてきました。
距離を壊し、ジャブを当て、近くで手をまとめ、ボディを混ぜ、顔面に返す。
この繰り返しが、後半の消耗につながっていきました。
もうちょっとカーフを散らせていたら、違う展開になったような気がします。特に後半のラウンド。
3R:ヴァンが「いける」と確信したラウンド
3Rは、ヴァンが自信を持って入ってきたように見えました。
1Rは取られた。
でも凌いだ。
2Rでダウンを奪った。
ジャブも当たっている。
組まれても終わらない。
この手応えが、前への圧力として出ていました。
打撃のヒット数が増え、平良が良い形で組みに行けない場面が続きます。
被弾が積み重なる。
前に出にくくなる。
それでも出ようとすると合わされる。
このラウンドで、試合の流れは明確にヴァンへ傾きました。
ただ、平良は折れませんでした。
ここが平良の強さでもあります。
絶望の3Rだった…
4R:最大の勝機はマウントからの三角だった
4R、平良はもう一度大きなチャンスを作りました。
打撃では劣勢。
流れもヴァン。
それでも前に出て組みに行き、テイクダウンを取り、マウントまで進めた。
3Rまでの消耗を考えると、本当に驚くべき場面でした。
平良のグラップリングの質と、諦めない気持ちが凝縮されていました。
そして、マウントから三角を狙いました。
「抑えてラウンドを取りに行けばよかった」という見方もあるかもしれません。
ただ私は、あれは正しい選択だったと思います。
採点状況を考えると、コントロールだけでは逆転に足りない可能性がある。
しかもヴァンはマウントを取られても背中を見せず、パウンドも決定的にはもらわない。
ならば一本を狙う。
あのマウント三角は、平良の勝負手でした。
ヴァンはそれを切りました。
技術があり、体が強く、落ち着いていた。
あそこを極め切れていれば、勝敗は逆になっていた可能性が十分あります。
この試合最大の山場は、4Rのマウント三角だったと思います。
疲れているラウンドなのに、一瞬で三角対策で手を入れてるヴァンはやっぱりすごいよ。
5R:平良は出し切った。最後に残っていたのはヴァンの力だった
5Rは、両者の消耗の差が出たラウンドでした。
平良は、1Rのテイクダウンとマウント、2Rの攻防とダウン、3Rの被弾、4Rのテイクダウン、マウント、三角と、すでに多くを使っていました。
一方、ヴァンにはまだ力が残っていた。
これはスタミナの差だけではないと思います。
ヴァンは平良にエネルギーを使わせ続けました。
マウントを取られても逃げる。
テイクダウンされても戻す。
ジャブで前進を止める。
その繰り返しが、5Rの体力差として現れた。
最後はヴァンが打撃で圧力をかけ、連打でストップ。
平良はまだ戦えるという気持ちだったはずです。意識を完全に刈られたような終わり方ではありませんでした。
だから本人が納得できないのも当然です。
ただ、1Rから積み上がった被弾と消耗を踏まえれば、レフェリーの判断も理解できます。
それでも、平良の立場で考えると、あまりにも悔しいストップでした。
かなりもらってたからダメージが心配。
次戦からは、打たれ弱くなってるかもですね…
敗因は「平良が弱かった」ではない
今回の敗因を、私はこう整理しています。
平良が弱かったから負けたのではありません。
ベストを尽くした。
今できることを出した。
勝ち筋を作り、王者に届きかけた。
それでもヴァンが上回った。
細かく見るなら、六つの要因があります。
一つ目は、1Rにマウントまで取ったものの、バックを取れず大きなダメージを与えられなかったこと。
二つ目は、ヴァンのグラウンドディフェンスが想定以上に精度が高かったこと。背中を見せず、フレームとバタフライでリカバリーする守り方は柔術的で丁寧でした。
三つ目は、2R以降にヴァンが「倒されても終わらない」という手応えを得たうえで、前へ出る確信を持ったこと。
四つ目は、後ろ足から距離を詰めるヴァンのステップが平良の距離感を狂わせたこと。
五つ目は、近距離の打撃戦に引き込まれ、被弾が増えたこと。
六つ目は、4Rの最大の勝負手をヴァンに切られたこと。あのマウント三角を逃げられたことで、5Rもヴァンの流れのまま進みました。
平良が何もできなかった試合ではありません。
平良が作った勝ち筋を、ヴァンが一つずつ潰していった試合でした。
ヴァンは本物の王者だった
試合前、ヴァンには「パントージャ戦が負傷決着だった王者」という見方もありました。
しかし、この試合でその評価は変わったはずです。
ジャブが鋭い。
右も強い。
手数がある。
距離の詰め方が巧みです。
倒されても背中を見せず、マウントを取られても戻し、サブミッションの危機でも動じない。
そして最終ラウンドまで体力と意志が残っている。
特に印象的だったのは、平良の強い時間帯をきっちり耐えたことです。
1Rを取られ、4Rにも追い詰められた。
それでも崩れなかった。
「運良くベルトを巻いた選手」ではなく、王者として防衛戦を勝ち切った選手。
ヴァンはこの試合で、それを証明しました。
平良達郎の挑戦は終わっていない
では、平良達郎はここで終わりなのか。
まったくそうは思いません。
日本人初UFC王者の夢は今回も届きませんでした。
それは本当に悔しい。
でも、平良はまだ若い。
今回の試合で通用した部分もはっきりありました。
テイクダウンは取れた。
マウントにも行けた。
4Rにも勝負手を作れた。
打たれても折れなかった。
足りなかったのは、王者を終わらせる最後の一手でした。
バックまで持ち込む力。
マウントから決定的なダメージを与える力。
近距離で被弾を減らす防御。
距離を壊してくる相手への適応。
カーフやストレートを最後まで機能させる組み立て。
課題は見えました。
でもそれは、裏返せば伸びしろです。
ヴァンも若い。
平良も若い。
UFC公式も、この王座戦を「フライ級の新時代」の幕開けと位置づけていました。両者の年齢と実力を考えれば、今回の一戦がライバル関係の始まりになっても不思議ではありません。
そう思わせるだけの試合でした。
日本人初UFC王者への道は、まだ続く
日本人初UFC王者は、またお預けになりました。
今回こそ届くと思っていました。
1Rを見た瞬間は、届いたと思いました。
でも届かなかった。
UFCの頂点は、それだけ高い場所です。
それでも、平良達郎はその頂点のすぐ近くまで行きました。
あの舞台で、あの王者相手に、最後まで勝ちに行った。
それは間違いなく、誇れる戦いでした。
結果は敗戦。
でも、平良達郎への期待が外れたわけではありません。
日本人初UFC王者への道は、まだ終わっていない。
最高の試合でした。
まじで感動した。
平良選手の折れない心、めっちゃかっこよかった。
Sonosのホームシアター環境で見ていたので、音響も最高で、臨場感がありまくりでした。
それゆえブーイングには腹が立ちましたが😠
参考サイト
UFC公式:UFC 328 公式計量結果
https://www.ufc.com/news/official-weigh-results-ufc-328-chimaev-vs-strickland
UFC公式:Van vs Taira Co-Main Preview
https://www.ufc.com/video/156499
UFC公式:A New Era In The Flyweight Division Begins In Earnest At UFC 328
https://jp.ufc.com/news/a-new-era-in-the-flyweight-division-begins-in-earnest-at-ufc-328-van-taira
UFC公式:Coach Conversation | Joshua Van vs Tatsuro Taira
https://jp.ufc.com/news/coach-conversation-co-main-van-taira-ufc-328
MMA Fighting:UFC 328 video: Joshua Van dazzles with late knockout to finish Tatsuro Taira after back-and-forth war
https://www.mmafighting.com/ufc/487344/ufc-328-video-joshua-van-dazzles-with-late-knockout-to-finish-tatsuro-taira-after-back-and-forth-war
MMA Fighting:UFC 328 live blog: Joshua Van vs. Tatsuro Taira
https://www.mmafighting.com/ufc/486997/ufc-328-live-blog-joshua-van-vs-tatsuro-taira

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