ルドガー・ブレグマンさんの希望の歴史を読みました。最高の一冊でした。ってことでメモしていきます。
性善説?性悪説?どっちを信じてる?
性善説と性悪説、人は生まれながらに善?それとも悪?どっちだと思いますか?
「どちらかというと悪だなー」って人が多いと思います。人ってあんまり信じられないですよね。
ニュースを見ると、国内だけでも毎週のように強盗とか殺人とかの報道がありますもんね。世界で見るとそんな恐ろしいニュースが毎日流れてそうです。
じゃあ昔と今で比べると、恐ろしい事件の数って増えてると思います?減ってると思います?それとも変わらないのでしょうか?
実を言うと、国内の殺人事件ってめちゃくちゃ減ってるんです。
認知件数は,昭和29年の3,081件がピークであり,その後,平成元年頃まで,緩やかに減少傾 向を示した。さらに,その後は,20年まで約1,200件~1,450件とおおむね横ばいの状態が 続き,21年以降は,やや件数が減少し,1,000件~1,100件の殺人事件の発生が認知されて いる。
https://www.moj.go.jp/content/000112398.pdf
じゃあなんでニュースで毎週のように殺人事件の報道がされているか?というと、メディアが視聴率を取りたいがために『過激な事件を取り上げる』からです。
実際の世界は過去数十年の間にどんどんと良くなっています。
- 極度の貧困
- 戦争の犠牲者
- 小児死亡率
- 犯罪
- 児童労働
- 自然災害による死
などはすべて減少しています。私たちはかつてないほど豊かで、安全で、健全な時代を生きているのです。
ですがこれらはメディアによって報道されていません。世界が良くなっているという報道ではなく、例外的なものばかり報道し、人々の世界の見方を歪めているのです。
ファクトフルネスを読んだ方なら、世界がより良くなっているということが、分かると思います。
メディアによって歪められる私たちの認知
プラセボ効果ってあるじゃないですか。
「これ、めちゃくちゃ効果ある薬だよ!」ってお医者さんに言われたら、それがただの砂糖の塊でもマジで効果が出ちゃうってやつですね。
人の思い込みの力はすさまじく強く、いまだに薬開発の現場では偽薬を使が使われています。(新薬と偽薬を比べないと、新薬の効果が本当にあるのか分からないから)
で、プラセボは逆にも働きます。これを『ノセボ効果』と言います。
「これ、めちゃくちゃ副作用あるから、マジでやばいから」とお医者さんから言われたら、ただの砂糖の塊でもマイナスの効果が出ちゃうんです。これはなんとなく分かりますよね。
で、メディアはノセボ効果にめちゃくちゃ影響を与えちゃうんです。
- 今日も殺人事件が起こりました→日本こわい
- 今日もワクチンの副作用に苦しんでいる人がいます→あ、なんかワクチン打ったらお腹痛くなってきた
などなど、マイナスの影響力ってすごく強いんです。(人間はマイナスを毛嫌いする特性があるから。報酬よりも損失のほうを大きく評価する心理的傾向から、損失回避バイアスなんて呼ばれています)
パニック映画は本当か?
性悪説にさせようとするものは、新聞やニュースだけではありません。
ドラマや映画もです。
パニック映画などでは、人々が慌てふためいている様子が描かれています。また、他人を押し退けてまで自分だけ助かろうとする人も登場します。
じゃあ実際のパニック現場ではどうでしょうか?
たとえば、タイタニック号。沈没寸前の船内ではどのようなことが起こっていたのでしょうか。
実際は、避難は極めて秩序正しくなされていたようです。
ほかにも、9.11のツインタワーのテロ。人々がどのような行動をしていたかというと、静かに階段を降り続け、消防士が来ると脇に寄って「お先にどうぞ」と声をかけていたそうです。
記憶に新しい3.11の東日本大震災でもそうです。外国のメディアからは「日本人はこんな時でも秩序を守っている」というような賞賛を受けていました。でもこれは日本人だけではありません。緊急時に、人は協力し合うのです。
(もちろんパニック映画が描くような利己的な人もいるとは思います。しかし、少数なんです。)
(また、この本では「人間は天使だ!」と言ってるわけでもありません。)
本書は人間の美徳について解くものではない。明らかに、人間は天使ではない。人間は複雑な生き物で、良い面もあれば、よくない面もある。問題は、どちらを選択するかだ。
p31
つまり私が言いたいのは、人は、仮に世慣れていない子供として無人島にいて、そこで争いに巻き込まれたり、危機に陥ったりしたら、必ず自分の良い面を選択する、と言うことだ。
つまり私が言いたいのは、人は、仮に世慣れていない子供として無人島にいて、そこで争いに巻き込まれたり、危機に陥ったりしたら、必ず自分の良い面を選択する、と言うことだ。
人間の根源は悪だ、への反論
本書の中盤から後半にかけて、『人間が悪だとされている証拠への反論』が述べられています。
ホモ・エコノミクスは本当か?
経済学者は人間をホモ・エコノミックスとして定義づけ、人間は利己的で計算高いロボットのように、いつも自分の利益だけを考えている種と考えていました。
しかし、実際にホモ・エコノミクスが実在するかどうかを調べた人はいませんでした。
2000年になり、ようやく経済学者のジョセフ・ヘンリックと彼のチームが、ホモ・エコノミクスを見つけるための調査に乗りだしました。5大陸、12カ国の15のコミュニティーを訪れ、そこで暮らす農民、遊牧民、狩猟民、採集民を対象として、1連のテストを行いました。
その結果、いくら調査をしてもホモ・エコノミクスは見つかりませんでした。人間が経済合理性だけに基づいて行動しているというデータは出てきませんでした。人間をホモ・エコノミクスと呼ぶには、あまりにも優しすぎたのです。
それでもジョセフ・ヘンリックは、経済学者の仮説の土台となっている、ホモ・エコノミクスという架空の存在を探し続けました。
そして、ついにホモ・エコノミックスを見つけました。しかし彼が見つけたホモ・エコノミクスは、人間ではなくチンパンジーだったのです。
長年に渡り多くの経済学者が考えてきた『ホモ・エコノミクスモデル』は、人間には当てはまりませんでしたが、チンパンジーの行動を予測する上で極めて正確であることが証明されたのです!
マキャベリ的知性仮説は本当か
『君主論』で有名なマキャベリは、「権力を維持するには嘘や疑問の網を張らなければならない」と言います。
ここから、『人間は相手を騙すことを数百万年繰り返してきたために脳が大きくなった』とするのがマキャベリ的知性仮説です。
ようは、「人間は他の動物に比べて、相手を騙すことが得意でっせー。そのために脳が進化してきたんでっせー。」ということです。
ではそれは本当なのでしょうか?この仮説が正しければ、騙し合いで人間がチンパンジーに負けるわけありません。
でも実際は違います。多くの研究ではチンパンジーが人間を負かし、人間は嘘が下手であることが分かっています。
また、赤面する霊長類は人間だけなのですが、本当に『相手を騙すように進化』したのであれば、赤面という感情表現はおかしいと言わざるをえないでしょう。
スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』は本当か?
人間は平和的なのか?暴力的なのか?
2011年に刊行された心理学者スティーブン・ピンカーさんの『暴力の人類史』により、この問いに終止符が打たれました。
「わたしが読んだなかでもっとも重要な本の一冊。それも「今年の」ではなく「永遠の一冊」だ。」
https://www.amazon.co.jp/暴力の人類史-上-スティーブン・ピンカー/dp/4791768469
–ビル・ゲイツ–
人類は地球上から暴力を根絶し、平和に向かうことができるのか?
人間の攻撃性を生み出す内なる「悪魔」と、暴力を回避する内なる「天使」の正体とは――。
先史時代から現代にいたるまでの人類の歴史を通観しながら、神経生物学などの多様なアプローチで、暴力をめぐる人間の本性を精緻に分析。
『言語を生みだす本能』『心の仕組み』『人間の本性を考える』などで知られる心理学の世界的権威が、
これまでの知見を総動員し、壮大なスケールで大胆な仮説を提示する、未来の希望の書! !
ピンカーさんは著書の中で、「暴力がだんだんと減ってきている」という結論を、数々のデータを用いて示しています。
- 21カ所の遺跡で見つかった骨の中で、暴力による死の兆候を示すものの比率は? 15%。
- 今も狩猟採集の生活を続ける8つの部族における暴力による死の比率は? 14%。
- 2つの対戦を含む20世紀全体での暴力による子の比率は? 3%。
- 現在のその比率は? 1%。
この本を読むと、「ピンカーさんの言う通りだわ」ってなります。でも、ピンカーさんのデータの集め方、統計処理法は正しいのでしょうか?
実を言うと、ところどころ勘違いしているところもあるようです。
たとえば、パラグアイに住むアチェ族の死者の30%と、ベネズエラとコロンビアに住むハイワイ族の死者の21%の死因は戦争である、とピンカーさんは結論づけています。
しかし、実際のところは、
- アチェ族→実のところ、アチェ族は互いを殺しあったのではなく、「奴隷商人に執拗に追い回され、パラグアイの国境地方の住民に襲われた」と、元の資料には書かれていた。アチェ族は、「力の強い隣人との平和的な関係を望んでいた」とある。
- ハイワイ族→ピンカーが戦死者として数えたハイワイ族の男女や子供は皆、1968年にその地域で牛を飼っていた牧場主に殺されたのだった。
狩猟採集民のアチェ族もハイワイ族も、互いを殺し合ったのではなく、『より文明化された農民の高度な武器』によって殺されていたのです。
『暴力の人類史』で分かりそうなことは、集落を作ったり、馬の家畜化を始めていたり、農業を始めたころの人類の暴力性であって、それ以前の狩猟採集民の暴力性は分かりません。人類の歴史は95%が狩猟採集民でした。狩猟採集民の暴力性を明らかにしない限り、「人間はもともと暴力的だ」なんてことは言えないのです。
では、馬の家畜化や農業など、定住する前の狩猟採集民の暴力性について示す証拠はあるのでしょうか?
考古学的遺物によると、戦いの証拠になるものや、戦うことが人間の本性であることを示すデータはほとんど見つかっていません。
現代行われている人類学の研究も同様の答えになっていて、人類学者のダグラス・フライさんは「狩猟採集民は暴力を避ける。話し合いで解決しない場合は、他の場所に移動する。」と結論づけています。
洞窟壁画から分かること
人間の自然状態がホッブズのいう「万人の万人に対する闘争」が正しいのであれば、旧石器時代の洞窟壁画に1つくらい戦争の絵が残されていてもよさそうです。
しかし、旧石器時代の洞窟壁画に残されているものは、バイソンやウマやガゼルの狩りを描いたものばかりで、戦いを描いたものは1つも見つかっていません。(狩りの壁画は、数千見つかっています。)
(旧石器時代以降、つまり人類が定住してからは戦いの壁画が登場しています)
人間はいつから戦争を始めたのか
旧石器時代の頃の人間が『戦争をした』という記録は見つかっていません。ではいつから人間は戦争をするようになったのでしょうか?(繰り返しになりますが、昔の人間が天使だったというわけではありません)
最終氷期が終わったのと同じ頃に、最初の戦争が起きた
最終氷期が終わったのと同じ頃、3つのことが考古学的研究から分かっています。
- 弓の射手が互いに狙っている洞窟壁画が描かれた
- 最初の軍事要塞が築かれた
- 最初の戦争が起きた
なぜこれらのことが重なっているのでしょうか?
考えられるストーリーとしては、
- 氷期が終わると西のナイル川と東のチグリス川に挟まれた地域は豊穣の地となった
- そこでは食物が豊富に育つため、そこに定住するメリットが生まれた
- 村や町が形成され、人口がどんどん増えていった
- 『自分達の村』に関心を向けるようになり、『他の村』には不信感を抱くようになった
こうして村同士で対立が起きたときに、戦争になったというわけです。
また定住するようになって、次のデメリットも生まれました↓
- 所有の概念が生まれた
- 所有していた人が死ぬと、それは子どもに受け継がれた
- これが貧富の差につながった
これは現代にも繋がりますね。
定住し、私有財産が出現することにより、1%の人が99%の人を抑圧するようになったわけです。
強いリーダーがいい人間なわけではないが力を持つ時代
戦争が起こるようになると、人々は強いリーダーを求めるようになります。そのようなリーダーは、戦場で活躍したカリスマ性のある人物が選ばれていきます。
戦争が起こるたびに、そのような人たちはリーダーとしての地位を固めていきました。そして平和時にもその地位を手放さなくなりました。
リーダーの座を奪われなくなる仕組みを整えた人の出現
戦いに優れたリーダーが出現したとしても、周りから「あ、こいつやばいわ。力が強いだけだわ。」と思われたら、リーダーの座からは引きずり降ろされます。
やばそうな人を引きずり下ろす方法として、
- ユーモア
- あざけり
- ゴシップ
などを、人類は編み出してきました。恥を感じるリーダーであれば、「あ、ワイやばいことやってたんだわ。はずかしー。」と、自ら身をひいていたのです。
でも恥ずかしさを感じない人もいます。そういう人には背後から弓矢でした。
しかし、そのような『やばいリーダー排除システム』を作動する前に、リーダーが大きな権力を持ってしまう場合があります。そこから人類の長い絶望の歴史が始まるのでした…。
広く信じられている性悪説を支持している話
性悪説を支持している話があります。たぶん聞いたことのある話です。
スタンフォード監獄実験は本当か?
スタンフォード監獄実験という有名な実験があります。
人々を看守役と囚人役に分けると、看守役はサディスティックなことをし始めるので、「人間は邪悪だ!」みたいな結論が導かれている超有名な実験です。
結論から言うと、誇張されすぎていました。そしてBBCが再現実験をしてみると…なにも起こりませんでした。
日本語で言うと、忖度みたいなのがスタンフォード監獄実験あったんですよね。被験者が実験の狙い(要求)を推測して、それに合う行動を取ろうとしたのです。(これを要求特性といったりします。)
ようは『監獄の看守は縁起をしていた』というわけです。
ミルグラムの電気ショック実験は本当か?
ミルグラムの電気ショック実験という、こちらも超有名な実験です。偉い人に「やれ」と言われたら、かなりひどいことまでやっちゃうってやつですね。
ミルグラムの実験はスタンフォード監獄実験と違い、再現性があります。世界中の心理学者が、ミルグラムの実験を大学の倫理規定に違反しないように修正しながら行ってきました。何度行っても、同じ結果が出ます。
と言うことは、人はお偉いさんに「やれ」と言われたら残虐な行為までやってしまうという、欠陥がある動物なのでしょうか。
実を言うと、このような実験には隠れた大前提があります。
「この実験は人類の役に立つはずだ」
という大前提です。
有名大学の科学者が実験をやるんですから、「この実験は人類のためなんだ」と思っちゃうのが普通です。そうであるならば、「多少の犠牲は致し方がない」と考える人もいるはずです。誰がも「命令されたら悪事だって平気でやっちゃいますー」ってわけじゃないんです。
スタンフォード監獄実験も同様です。「この実験により、監獄体制を見直すきっかけをつくろう」という実験者の願いが、被験者に伝わってしまったのですね。
傍観者効果は本当か?
傍観者効果、こちらも超有名なやつですね。
よく使われるたとえですと、誰かが倒れていたとして、その場に自分だけなら救急車を呼ぶけれど、周りに人がいたら「誰か救急車呼んでるやろ」と思って傍観者になるってやつです。
さて、傍観者効果はどこまで事実なのでしょうか?
2011年に、傍観者効果のメタ分析が発表されました。このメタ分析からは、2つの洞察がもたらされています。
- 傍観者効果は確かに存在する
- だが、もしも緊急事態が命に関わるものであり、傍観者が互いに話せる状況であれば、救助の可能性は減るのではなく、増える
ということが分かりました。傍観者効果の一人歩きは、これにて終了です。
また、デンマークの心理学者、マリー・リンデゴーさんが都市の監視カメラに残っている映像を調べたところ、乱闘、レイプ、殺人未遂などを目撃した90%のケースで、人は人を助けることが分かりました。
問題が起こった時、人は傍観するより高い確率で助け合うのです。
ここまでが希望の歴史の上巻のメモです。
人が悪に陥る時とはどんなときか
ここから下巻のメモです。
数々の実験の参加者は『人助けがしたかった』
上巻で見てきた通り、監獄実験の参加者も電気ショックの実験の参加者も、
- 実験者のためとか、
- その実験の結果が後世に役立つ
という思いから、実験を続けていました。つまり、どちらも『人助け』をしていたわけです。
では悪を働いた人は誰なのか?もちろん責任者ですね。
人助けできなかった人間がいるとすれば、それは科学者や編集者や、知事や刑務所長といった責任者だ。彼らは嘘をつき、操作した、怪物だった。これらの権力者は自らのよこしまな願望から人々を守るどころか、全力を尽くして、人々互いと敵対させたのだ。
p13
ドイツ兵が戦い続けた理由
第二次世界大戦の最中、ドイツ兵は敗戦状況のなかでも降伏することなく戦い続けました。
なぜ戦い続けるのか?
当時の心理学者は、ナチスが掲げるイデオロギーに洗脳されているのが理由だと考えました。
そこで、連合軍は次のようなことが書かれたビラを大量に配りました。
- ドイツの立場は絶望的
- ナチスの思想は卑劣
これでドイツ兵が目を覚ますことを期待しました。そしてこのビラはドイツ兵の90%に届きました。
ではビラの効果はいかに?
ありませんでした。
それほどまでにナチスのイデオロギーは強いのです。
と思いきや、数百人のドイツ人捕虜と面談することで分かったことがあります。彼らは似た言葉を口にしました。
- ナチスのイデオロギーを受け入れてはいない
- ドイツが勝てるとも思っていない
では、なぜドイツ兵は負けることが分かっていても戦い続けたのでしょうか?
その答えは実にシンプルでした。
「戦友を救うため」
だったのです。
テロリストは極悪人だけなのか
テロリストの特徴ってなに?という問いがあったとすると、「やべー思想のやつでしょ」と思ってしまいます。
でも実際は違います。テロリストの特徴ってあんまりないんですよね。教育レベルもさまざまですし、お金持ちもいれば極貧までいるし、信仰深い人もいれば無神論の人までいます。(精神疾患を患っているわけでもありません)
専門家曰く、テロリストに共通して見られる特徴があるとすれば、「影響されやすいこと」だそうです。つまり、家族や友達の影響に左右されやすいということです。
(ちなみに、2013年と2014年にシリアに向かった数千人のジハーディストの4分の3は、知り合いや友達に勧誘されたジハードに加わったそうです。しかも大半はイスラム教についてほとんど知らず、出発前に『超初心者向けコーラン』を購入していたそうな)
距離を取れる武器
戦争において、大半の兵士は銃を発砲していないことが分かっています。人を撃つって心理的にめちゃくちゃハードルが高いんです。
また、銃を撃つ以上に難しいことがあります。それが銃剣で刺し殺すことです。軍事歴史家が調べたところ、ワーテルローの戦いとソンムの戦いで負傷した兵士のうち、銃剣による負傷者は1%もいませんでした。
第二次世界大戦で亡くなったイギリス人兵士の死因を調べると↓
- その他:1%
- 化学攻撃:2%
- 爆風、圧死:2%
- 地雷、罠:10%
- 銃弾、対戦車地雷原:10%
- 迫撃砲、手榴弾、空爆、砲弾:75%
ここから何が分かるかというと、死因のほとんどは遠隔操作によるものということです。面と向かって人を殺すって、普通の精神なら耐えられないんです。
これ以外に、遠距離から敵を攻撃できる存在がいます。
指揮官と呼ばれる人たちです。彼らは高みから命令を下すため、敵と面と向かい合う必要がありません。彼らにとっては、人の死は数字の1つでしかなくなるのです。
また、戦場の現地で戦う人たちはいわゆる『フツーの人』ですが、指揮官は違い、明らかな特徴があると歴史家やテロの専門家は言います。彼らは、権力に飢えたナルシシストや、エゴイストで、同情や懐疑といった感情に悩まされることはないそうです。
人間のやっかいな性質
人間には下に示すようなやっかいな性質があります。
幼児の研究から分かる人間のやっかいな性質
カイリー・ハムリンさんの研究によると、生後6ヶ月の幼児でも善悪を見分けることができ、そして悪より善を好むということが分かっています。(人形劇を見せると、意地悪な人形より親切な人形に手を伸ばした)
ここまで聞くと、「おー、やっぱり人間って小さなうちから善を好むようになってんや」と感心するかもしれません。
でも、知っておきたいのがここからです。
その研究から数年後、すこしひねりを加えます。
- まず乳児にグラハムクラッカーとインゲン豆の好きな方を選ばせる
- その後、乳児にグラハムクラッカーが好きな人形と、インゲン豆の好きな人形を見せ、今回もどちらかの人形を選んでもらう
そんな実験です。
この実験の結果分かったことは、乳児の大多数は自分と同じ嗜好をもつ人形を選びました。善悪に関わらずです。
つまり、親切だけど自分とは好みの違う人形より、意地悪だけれど自分と好みが似ている人形を選んだということです。
共感力
共感力と聞くと、なんかいいイメージがありますよね。「優しい人」なんて思っちゃいます。
心理学者ポール・ブルームは共感力についてこんなことを言っています↓
「私は共感を良いこととは思わない」
と。
なぜ共感力はいいことではないのでしょうか?
というと、共感は特定の人や集団だけに光を当てるからです。全体を見れなくなってしまうのですね。
さきほどのナチス兵は、戦友のために負けることが分かっていながらも懸命に戦い続けました。「戦友のため」と聞くと、美談に聞こえます。
でも、「こりゃ無理だわ!」と早々に降伏する人が多ければ、ドイツ兵はそれ以上死ななくてすんだはずです。結果として、多くの戦友を救えたはずです。
テロリストになる人もそうですね。友人や家族に共感しなければ、テロリストにならなかったでしょう。
共感力は、人間を地球上でもっとも優しい動物にしている性質なのですが、反対に、もっとも残虐な動物にもしている性質でもあります。共感はいいことばかりじゃありません。
なぜ権力者はヤバいやつなのか
これまでの話を踏まえると、人間は基本的に他者に配慮できる優しい動物ですが、一度権力者がやべーやつになっちゃうと、そいつに従うまま悪いこともしちゃう、ということになります。
ではなぜ権力者はヤバいやつがなってしまうのでしょうか?ぼくたちはそんなヤバいやつをリーダーとして選んでしまうのでしょうか。
クッキーモンスター研究
カリフォルニア大学の社会心理学者ザッカー・ケルトナーさんらがおこなった有名な研究に『クッキーモンスター研究』というのがあります。
被験者を3人ずつのグループにして、ランダムにリーダーを指名します。そして地味な作業を取り組ませた後に、「皆さんでどうぞ」と5枚のクッキーを渡します。3人なのに5枚という割り切れない枚数がミソです。
どのグループも最後の1枚は残しました。でも4枚目のクッキーは、ほぼすべてのグループでリーダーが食べていたのです!
しかもリーダーたちの食べ方にも特徴があり、
- 口を開き
- 大きな音を立てて食べて
- クッキーをシャツにこぼす
という傾向がみられたのです。
ランダムでリーダーに選ばれただけなのに、人間のおぞましい部分がでてきております…。って、これ、ほんまかいな?とツッコミたくなりますよね。でも同様の研究が世界中で発表されているそうな…。
ケルトナーさんらは、別の研究もおこなっております。高級車が人にどのような心理的影響を与えるかの研究です。
- 普通の車の運転→横断歩道渡ろうとする歩行者を見かけると、彼らは皆、法に従って一時停止した。
- 高級車の運転→45%の人は、歩行者のために一時停止しなかった。そして車が高価になればなるほど、運転マナーは乱暴になった。
「マジか…」。どうやら権力(っぽいもの)を手にすると、人間はポンコツになるようです。
後天的社会病質者(後天的ソシオパス)
このような人たちを医学用語では、後天的社会病質者(後天的ソシオパス)と呼びます。後天的社会病死者という言葉は、19世紀に心理学者たちによって初めて診断されました。非遺伝性の障害で、脳の領域を損傷したときにおこります。
で、権力を握る人々も、脳を損傷したかのような振る舞いをするのです。
- 衝動的で自己中心的
- 横柄で無礼
- 他人の気持ちに関心がない
などです。
2010年の研究で、3人のアメリカの神経科学者が「頭蓋刺激装置(TMS)」を使って、権力を持つ人と持たない人の認知機能を調べました。
その結果、権力を持つ人は『ミラーリング』がうまくできていないことが分かりました。通常、私たちは常にミラーリングをおこなっています。相手が笑っていたら自分も笑ったり、相手があくびしたら自分もあくびしたりするなどが、ミラーリングです。
権力を持つ/持たない場合の心のありよう
多くの研究で分かっていることは、権力を持つと他者を否定的に見えるようになることです。
- 他の人は怠け者が多い
- だから自分が管理しなければならない
- 自分は他の人より優れている
逆に、権力を持たないと自分を否定的に見てしまいます。
- 自信が持てない
- 意見を発言できない
- 集団において、自分を小さく見せようとする
などです。
このような態度は、権力者にとっては都合がいいです。相手を指図しても、反発してこないからです。
権力者をやっかいな人にしているのは、権力者自身だけでなく、その他大勢の影響もあるのですね。
権力のパラドクス
クッキーモンスター研究や、高級車の研究などを見てきたように、権力は人を変えます。
ケルトナーさんはこれを『権力のパラドクス』と呼びます。
私たちは控えめで優しい人をリーダーに選びます。しかし、リーダーの座につき権力を手にすると、その人はのぼせ上がってしまいます。人間のやっかいな性質ですね。
そんな権力者をすぐに交代できるような仕組みがあればいいのですが、一度権力を手にした人をひきずり下ろすのは並大抵なことではありません。法律が定まっていない時代であれば、後ろからブスっと矢を射ることもできましたが、いまの時代では無理です。
権力者が権力を維持できるようになった時から人間の悲劇ははじまった
権力者が出てきて間違った方向に進み出しても、後ろからブスッとすれば権力者を引きずり下ろすことができる時代もありました。でもいまはそんな時代ではありません。いつから権力交代ができなくなったのでしょうか。
1万年前から始まった定住&農耕
1万年前から人間が1カ所に定住し、農耕を始め、私有財産を蓄えるようになった時から悲劇が始まります。
移動民だったころは『移動しながら持てるもの』が財産の全てでしたが、定住生活が始まると財産が積み上がるようになります。それで階層性が生まれます。
そしてひとたびリーダーなるものが現れ、豊富な財産で軍隊を築き上げ、暴力で人々から税金なるものを搾り取れるようになると歯止めがきかなくなりました。(抵抗するとボコボコにされたり、牢屋に入れられたり、処刑されたりするから)
定住&農耕は、ほとんどの人間にとっていいものではなかったのです。
現在も続く暴力
現在も権力者による暴力は続いています。さすがにボコボコにされるというような暴力はほとんどなくなりましたが、現在でも『ある種』の暴力性は続いています。
森に入って勝手に松茸とかをとったら怒られますし、海のアワビなんかもそうでし、公園にテント貼って寝てても怒られちゃいます。
「地球は誰のものでもない!みんなのものだ!」
とか言っても無駄です。警察呼ばれちゃいます
税金とかもそうですよね。勝手に「これは〇〇税が必要だから払ってね!」などの書類が届き、支払わなかったら罰金を課されたり、やっぱり警察を呼ばれちゃいます。ひどい。
おわりに
ってことで、めちゃくちゃオススメの一冊です。
参考までに。それでは!
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