ぬるい飲み物を冷やしたいとき、氷を入れるのはおなじみの方法です。冷たい水を足しても温度は下がりますが、氷には、液体の水にはない熱の受け取り方があります。
氷は、溶けて水に変わるときに必要な「融解熱」を、飲み物から受け取ります。そのため、最初の温度と加える量をそろえても、液体の水を足す場合より、飲み物を低い温度まで冷やせるのです。
たとえば、30℃の水200gに、0℃の水20gか氷20gを加える比較では、周囲や容器との熱のやり取りを無視すると、最後の温度は水なら約27.3℃、氷なら約20.0℃になります。「氷のほうが温度が低いから」だけではない、この違いを見ていきましょう。
まず、氷と水の温度と量をそろえる
氷であることによる違いを見るため、まずは次の条件で比べます。
- 冷やす飲み物の量と最初の温度、使う容器は同じにする。
- 加えるのは、0℃の氷20gか、0℃の水20g。
- 周囲や容器との熱のやり取りは、いったん無視する。
量をgでそろえるのは、同じ体積の氷と水では質量が違うためです。同じ水20gを、凍った状態で使うか、液体の状態で使うか。その比較だと思うと分かりやすくなります。
冷凍庫から取り出したばかりの氷は0℃より低いことがあり、その場合は氷自身が0℃まで温まるときにも熱を受け取ります。今回は、最初から0℃の氷として、その分を除いて考えます。
比べるのは冷える速さではなく、中身が十分に熱をやり取りした後、何℃で落ち着くかです。
冷たい水は、温まることで飲み物の熱を受け取る
0℃の水を、もっと温かい飲み物に加えると、温度の高い飲み物から、温度の低い水へ熱が移ります。飲み物は冷え、加えた水は温まります。
外との熱のやり取りがなければ、全体が同じ温度になるところで、温度差による熱の移動は落ち着きます。このような状態を「熱平衡」といいます。
水がどれくらいの熱を受け取るかは、水の量と、温度が何℃上がるかで決まります。日常的な温度の範囲なら、水1gを1℃温めるのに必要な熱は約4.18Jです。Jはジュールと読み、エネルギーの単位です。
物質の単位質量(1gや1kg)あたりで、温度を1℃上げるのに必要な熱量を表すのが「比熱」です。同じ温度まで温めるなら、水の量が多いほど受け取る熱も多くなります。
氷は、温度が上がらなくても熱を受け取る
氷の場合は、水に変わるためにも熱が必要です。固体が液体になる変化を「融解」といいます。
通常の大気圧のもとでは、純粋な水の氷と液体の水がつり合って共存する温度は約0℃です。その状態を保ちながら少しずつ熱を加えると、温度はほぼ0℃のまま、氷が減って水が増えていきます。

温度計の数字が上がらなくても、熱を受け取っていないわけではありません。受け取った熱によって、氷から水への状態変化が進んでいます。
この、溶けるときに必要な熱を「融解熱」と呼びます。温度変化として表れない、状態変化に伴う熱という意味で「潜熱」とも呼ばれます。0℃の氷1gを0℃の水にするには、約334Jの熱が必要です。
約334Jは、同じ1gの水の温度を約80℃上げるときに必要な熱量に相当します。水の比熱を約4.18J/(g・℃)として熱量の大きさを比べた目安で、飲み物が80℃冷えるという意味ではありません。
温度が上がらないのに、入った熱はどうなる?
氷の中では、水分子が「水素結合」という分子同士の結びつきによって、規則的な結晶構造を作っています。水分子は止まっているのではなく、決まった位置の周りで振動しています。溶けるときには結びつきの一部が組み替わり、分子が互いに位置を入れ替えながら動ける液体の状態になります。
その構造を変えるためにもエネルギーが必要です。入ってきたエネルギーは、温度を上げることだけに使われるわけではありません。物の内部のエネルギーには、分子の運動に関わる分だけでなく、分子同士の並び方や結びつき方に関わる分もあるからです。
氷でも液体の水でも、水分子そのものはH₂Oのままです。変わるのは分子同士の並び方や結びつき方で、液体になっても水素結合は残っています。

溶けてできた水も、さらに熱を受け取る
氷が水になった後も、周りの飲み物より冷たければ、その水は熱を受け取って温まります。0℃の氷が、最後に0℃より高い温度の水になるまでに受け取る熱は、次の二つに分けて考えられます。
- 0℃の氷が、0℃の水に変わるための熱。
- 溶けてできた水が、最後の温度まで温まるための熱。
初めから液体だった水には、一つ目の分がありません。氷は「溶ける分」と「水になってから温まる分」の両方で、飲み物から熱を受け取れるのです。
実際のコップでは、氷が溶ける一方で、すでに溶けた水が周囲と混ざって温まることもあります。ここで二つに分けたのは、熱量を数えるためです。氷が全部なくなるまで、溶けた水も必ず0℃のまま待っている、という意味ではありません。
同じ飲み物に加えると、最後の温度はどれくらい違う?
冒頭の例を、熱のやり取りから確かめてみましょう。冷やすのは30℃の水200g、加えるのは0℃の水20g、または0℃の氷20gです。飲み物の成分による違いを避けるため、冷やす側も純粋な水にします。
周囲や容器との熱のやり取りに加え、蒸発やかき混ぜる仕事による影響も無視します。水の比熱は4.18J/(g・℃)、氷の融解熱は334J/gで一定とするモデル計算で、実際の測定結果ではありません。
| 200g・30℃の水に加えるもの | 熱平衡になった後の温度 |
|---|---|
| 0℃の水20g | 約27.3℃ |
| 0℃の氷20g | 約20.0℃(氷はすべて溶ける) |

加えた量も最初の温度も同じですが、氷を加えたほうが低い温度まで冷えます。違いを生んでいるのが、溶けるときに受け取る熱です。
計算では、出した熱と受け取った熱をそろえる
最後の温度をT℃とすると、もとの水200gは「30−T」℃冷えます。水が温まるとき、または冷えるときの熱量は、「質量×比熱×温度の変化」で求められます。
0℃の水20gを加えた場合は、もとの水が出す熱と、加えた水が受け取る熱が等しくなります。
200 × 4.18 × (30 − T) = 20 × 4.18 × T
これを解くと、Tは約27.3℃です。
0℃の氷20gを加えた場合は、受け取る側に、氷が溶けるための熱も加わります。
200 × 4.18 × (30 − T) = 20 × 334 + 20 × 4.18 × T
これを解くと、Tは約20.0℃です。
氷の側の内訳は、溶けるために6,680J、溶けた水が約20℃まで温まるために約1,670J、合計約8,350Jです。一方、初めから液体だった水20gが、約27.3℃まで温まる間に受け取る熱は約2,280Jです。
なお、この例では、もとの水200gが30℃から0℃まで冷える間に出せる熱は25,080Jあります。氷20gを全部溶かすための6,680Jを上回るので、氷がすべて溶けるとして計算できます。
このように、最後の温度は飲み物と氷の量や最初の温度によって変わります。「氷ならいつも何倍冷える」という一定の倍率では表せません。
氷が残っていれば、飲み物は必ず0℃?
氷と純水が十分に熱をやり取りしてつり合っているなら、通常の大気圧では約0℃です。氷が残っているところへ外から熱が入ると、その熱によって氷が溶けるため、温度が上がりにくくなります。
ただし、飲み物に氷を入れた直後は、氷の近くと離れた場所で温度が違うことがあります。また、砂糖や塩などが溶けた飲み物では、純水と同じ温度で凍ったり溶けたりするとは限りません。氷が見えているだけで、飲み物のどこも必ず0℃だとはいえません。

先ほどの30℃の純水200gに0℃の氷を加える計算では、水が0℃まで冷える間に出せる熱は25,080Jです。これで溶かせる氷は、25,080 ÷ 334で約75gとなります。周囲や容器との熱のやり取りを無視すると、これが氷をすべて溶かせる量の目安です。
溶かしきれないほど多くの氷を加えた場合は、氷と水が約0℃でつり合います。0℃の氷をさらに足しても、水温が0℃より低くなるわけではありません。一方、暖かい部屋で外から熱が入り続ければ、残った氷も次第に溶け、なくなった後は全体の温度が上がっていきます。
小さな氷は、受け取れる熱が多いの?
大きな氷一個と、それを細かく分けた氷では、溶ける様子が違います。同じ量でも、細かく分けると表面積が増え、飲み物と接する面を広くできます。そのため、ほかの条件が同じなら、一般に熱を速く受け取りやすくなります。
一方、氷の最初の温度、合計の質量、最後の状態と温度が同じなら、受け取る熱の総量は同じです。細かく分けても、溶けるために必要な熱の総量は変わりません。

つまり、氷の量と状態から考える「熱の総量」と、表面積や水の流れから考える「熱が移る速さ」は別です。実際の冷え方には、混ぜ方や、氷のどの部分が飲み物に触れているかも関わります。大きさだけで冷える時間を決めることはできません。
また、お茶などへ直接入れた氷は、溶けた分だけ水として加わります。氷20gがすべて溶ければ、加わる水は20gです。形を変えても、この量は変わりません。
氷で冷やすことと、冷たさを保つこと
ここまでの計算では、周囲との熱のやり取りを無視しました。しかし、実際のコップには、暖かい空気や容器などからも熱が入ります。氷が受け取る熱のすべてが、飲み物を冷やすことだけに使われるわけではありません。
真空断熱の水筒は、周囲から中へ入る熱を抑えるため、氷や飲み物の冷たさが長持ちしやすくなります。氷が熱を受け取る働きと、容器が熱の移動を抑える働きを合わせて考えると、保冷の仕組みが分かります。容器の構造については、魔法瓶はなぜ保温も保冷もできるのかで詳しく紹介しています。
普通のコップでは、氷が小さくなる一方で、外側に水滴がつくこともあります。中で起きているのは氷から水への「融解」、外で起きているのは空気中の水蒸気から水への「凝結」です。外の水滴の由来は、冷たいコップに水滴がつく理由で整理しています。
まとめ
同じ0℃の氷と水でも、飲み物から受け取る熱は同じではありません。水は温まるときに熱を受け取り、氷はそれに加えて、溶けるときにも熱を受け取ります。
量と最初の温度をそろえても、氷を使うほうが飲み物を低い温度まで冷やせるのは、この状態変化があるためです。ただし、最後の温度は飲み物と氷の量などで変わり、冷える速さには表面積や混ぜ方も関わります。
氷が溶けて小さくなるのは、周りからエネルギーを受け取った結果です。温度計の数字だけでなく、氷の量の変化にも目を向けると、コップの中で起きている熱のやり取りが見えてきます。
参考資料
OpenStax『University Physics Volume 2』1.4 Heat Transfer, Specific Heat, and Calorimetry(熱平衡、比熱、熱量の計算)https://openstax.org/books/university-physics-volume-2/pages/1-4-heat-transfer-specific-heat-and-calorimetry
Pátekほか「Reference Correlations for Thermophysical Properties of Liquid Water at 0.1 MPa」(水の比熱と温度による変化)https://www.nist.gov/system/files/documents/mml/acmd/fluids_modeling/832373.pdf
OpenStax『University Physics Volume 2』1.5 Phase Changes(融解熱、相変化と温度、氷を使う熱量計算)https://openstax.org/books/university-physics-volume-2/pages/1-5-phase-changes
OpenStax『University Physics Volume 2』1.6 Mechanisms of Heat Transfer(熱が移る速さと熱の伝わり方)https://openstax.org/books/university-physics-volume-2/pages/1-6-mechanisms-of-heat-transfer
国際水・蒸気性質協会(IAPWS)「FAQs About Water and Steam」(水分子、水素結合、氷と水の構造)https://iapws.org/faqs/faq1
前川製作所「氷の性質および産業における低温環境の利用技術に関して」(氷の融解熱、比熱、水溶液との違い)https://rdc.mayekawa.co.jp/column/02-2.shtml
岡山大学「氷の融解が始まる“きっかけ”を分子レベルで解明することに成功」(氷と液体の水の構造、水素結合についての基礎説明)https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id48.html
資料確認:2026年11月6日

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