田坂広志さんの「複雑系の知」を読んで

複雑系の知 本の感想
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私の敬愛する田坂広志先生の「複雑系の知」を読みました。忘れる前に備忘録的に記事残します。

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現代は複雑系としての性質を強めている

インターネットの登場以来、インターネットという知のネットワークが社会の性質を根本的に変えていきます。その大きな知のパラダイム転換で私たちはどのように学び・考え・行動して生きていくべきだろうか。

世界は自然と複雑化の道をたどっている

160億年前、宇宙は存在しなかった。この世界は真空で満たされていたと現代科学では言われています。その時突如、真空に「ゆらぎ」が起きるとともに、巨大なエネルギーが生まれ一瞬にしてこの宇宙を作ったとされています。

  1. 宇宙が徐々に冷え、最も簡単な元素である水素を形成
  2. 長い時間をかけ水素が集まり太陽や恒星を形成
  3. 恒星の中で重元素を形成
  4. 星の消滅と誕生を繰り返し、様々な元素を作っていく
  5. 無数の惑星のうち奇跡に近い条件で地球が誕生
  6. 様々な元素が組み合わさり無機物が形成
  7. そこからさらに複雑な有機化合物への化学進化が起こる
  8. 有機化合物を材料として単純な生命が生まれる
  9. 長い年月をかけ原生動物から霊長類へと生命進化を遂げる
  10. 霊長類からさらに高度な「精神」もつ人類へと進化
  11. 精神から「文明」や「文化」という高度な複雑系を生み出す

私たちが生きる世界はなぜかわからないけど、複雑化の道をたどっています。

複雑化とともに獲得する性質

  • 自然に秩序や構造を形成する、自己組織化と呼ばれる性質
  • 突如異なった性質を持つ進化と呼ばれる性質
  • 複雑化すると新しい性質を獲得する、創発と呼ばれる性質

この3つの性質を複雑系は獲得していきます。

複雑系の知を伝える現代の七賢人

複雑系の知とは単なる知識ではなく、体験を通じてしか身につけることはできないものと田坂さんは言います。それを読者に伝えるために七賢人を登場させます。

  • ポエット:詩人
  • インキュベーター:孵化を促すもの
  • ストーリーテラー:語り部
  • アントプレナー:起業家
  • セラピスト:心理療法家
  • ゲームプレイヤー
  • アーティスト

この本ではそれぞれの賢人がわかりやすく複雑系というものを語ってくれました。とても素晴らしい内容なので、是非本を手に取ってみてください。

世界の本質は関係性にある

今までの科学では複雑なものに出会うと、わかりやすい要素に分けて理解を試みてきました。例えば数学でいうと因数分解のように。しかし、複雑化し過ぎたものには、要素に分けて理解することには限界がきました。なぜかというと、分ける瞬間に「大切な何か」が失われるからです。と言うのも、要素が組み合わせって「関係性」が生まれます。その関係性は要素自体が生み出しているのではなく、要素が組み合わさって生まれるものです。例えば水分子1つを温めても、冷やしても分子の動きが活発になるか、静かになるかのどちらからですが、水分子を集めた水滴では、水蒸気になり、氷の結晶にもなります。水分子という単純なものを見ても、多数集まり複雑になることで、新しい性質を獲得します。逆に言えば、水滴を小さい要素の水分子に分けると、この性質は失われるのです。

では複雑な世界をどう理解していくべきでしょううか?

「洞察」や「直感」という方法を用いるべきだと田坂さんは言います。すなわち、「ただありのままに観察する」ということです。ありのままに観察することはとても難しく、対象について自分が専門的であればあるほど先入観を持ってしまいますそこで重要になるのが「直感」になります。直感と聞くと、感性だけに委ねていそうですが、直観力を身につけるためには論理的思考を極めるしかありません。直感とは、論理を捨てた時ではなく、むしろ論理を極めた時にこそ、開ける世界なのです(例:将棋やチェス)。

論理とは別に体験に徹する道でも直観力が身につきます。例えばスポーツ。相手のフォームを見ただけで力量が分かるなんてのも、直観力の1つですね。

世界の本質を知るためには、世界の真実を分析によって理解することはできないということを知るしかありません。ポエット(詩人)は、それを知っているからこそ洞察と直感により世界の本質を表そうとします。

社会の本質を知るだけでは意味がない

社会の本質を知るだけでは意味がありません。大切なことは、社会の現実をより良いものに変えることです。

哲学者たちは、これまで世界を解釈してきたにすぎない。大切なことは、それを変革することである。カール・マルクス

20世紀における社会の考えは、理想的な未来に向かって社会を機械的に「管理していこう」とするものでした。こうした考えのもと作られた共産主義は失敗しました。他にも、環境問題の解決のため。「環境制御」という学問が登場し、環境をあたかも機械のように見立て管理・制御しようとしたが、それも失敗しました。

なぜこのように社会や環境を管理しようとすると失敗するのでしょう?

それは、環境はいうまでもありませんが、社会や組織が「生命力」を持っており、個の自発性が全体の秩序を生み出すからです。例えばコンピューター・シミュレーションにより鳥の群れを作ってやり、それぞれの鳥に

  1. 近くの鳥が数多くいる方向に向かって飛ぶ
  2. 近くにいる鳥たちと飛行の速さと方向を合わせる
  3. 近くの鳥や物体に近づきすぎたら離れる

この3つの挙動をプログラミングするだけで、鳥の群れは高度な秩序をもった集団的挙動を示すようになるのです。人間という高度な知的生命体の挙動を、そもそも管理するという発想自体が無理であり、その挙動こそが秩序立つのですね。

このことから、社会の現実を変えていこうとするならば、社会を人為的に変えようとするのではなく、社会が自発的に変わることを促進させるのです。社会の持つ自発的なプロセスに委ね、それを促進させるにはどうすればよいでしょうか?そのためには情報共有をするべきなのです。知の結晶である情報をどんな人にでも平等に伝えることができれば、社会は良い方に促進されるはずです。そしてそれはインターネット、SNSによりどんどん可能になってきました。社会の管理ではなく創発性を促し、社会が自ら変わることを援助するのがインキュベーターの知なのです。

創発を促すための条件

社会を変えるためには、社会自らが創発し変えていかなければならないと述べましたが、では促すにはどうしたらよいのでしょうか?この本が上梓された1997年には存在もしてなかったものですが、今でいうSNSの「シェア」です。インキュベーターがすることが情報発信、情報共有することであれば、ストーリーテラーがすることは「情報共鳴」を生み出すことです。社会における創発を促すためには情報共有だけでは十分ではなく、情報共鳴が必要になります。

それではどうやって情報共鳴をさせるのでしょうか?

それに必要なのは「物語性」です。優れた物語を語る人には、その言葉に言霊が宿り、人々の共鳴を生み出すだけでなく、その物語が人々を癒すのです。

個人の時代へ

複雑系としての社会には「摂動敏感性」という性質があります。摂動とは小さなゆらぎのことで、小さなゆらぎによって、社会全体が大きな変動を生じることを意味します。例えば、カオス理論のバタフライエフェクトのことで、北京で蝶々が羽ばたくと、その影響でハリケーンが起こるというやつです。最近の例で言うと、日本の女性が「保育園落ちた」ということをブログにアップし、待機児童改善の動きが見られたように、個人の小さなコトが大きなものを動かすことが、これからは当たり前のようになるでしょう。

個人の力でも社会をより良いものに変えていくことができます。この生き方こそが、個人が歴史に参加するということであり、その生き方を教えてくれるのが、、アントレプレナー(起業化)です。

西洋医学から東洋医学へ

複雑系の情報を要素ごとに分割して、その要素の問題を解決したところで、その系の問題解決にはならないことはすでに述べたとおりである。例えるならその方法は西洋医学に似ています。病気になったらすぐに抗生物質を施すように、問題の箇所に適切な薬を届けたり、腫瘍ができた場所を外科手術で取り除いたり。これは悪く言えばその場しのぎの策です。病気になるような人の生活スタイルを改善しない限り、その人は必ず同じような病気にかかるでしょう。

これからの時代に必要なのは、西洋医学的な処方ではなく、東洋医学的な処方です。例えば漢方薬で体を温め、汗を流し、栄養のある食べ物を摂取するなど、問題を一箇所だけと限定せずに、総合的に改善していくという方法です。

高齢者の体が不自由だから老人ホームを作って介護をするのか、高齢者の体が不自由になる前に高齢者の健康寿命を伸ばせるような共同体を作るべきなのか。今必要なのは明らかに後者ですね。

現代社会においては様々な問題が絡み合って、それが一つの系を形成しています。この系から問題の一部だけを取り出し解決することはできません。だから系の全体を見て同時に改善させるための働きかけを行わなくてはならず、そのために必要なことが水平統合思考と、垂直統合思考の2つの思考スタイルが求められます。この大切なことをセラピストの知は教えてくれます。

複雑化すれば法則も変わる

社会の問題を解決しようと思えば、社会の法則を生かす必要があります。しかし、社会の法則とは何か?と、新たな問いが生まれます。

物質で考えてみると、ビリヤードの玉をこの角度でついたら、あの方向に転がっていくというのはビリヤード台が凸凹してない限り、かなり再現性の高いものです。つまりこの物理学の法則さえ知ることができれば、予測をすることができるでしょう。では、植物を考えてみましょう。同じチューリップの球根を植えて、同じ実験条件にしたとしても、育つスピードや大きさは成長するに従って異なってきます。なぜなら球根にも「個性」があるからです。では生物のマウスで考えてみましょう。マウスを使って迷路を走らせる実験においては、同じ実験条件で繰り返し実験を行っても、その実験結果は徐々に異なってきます。なぜなら、マウスが「学習」をするからです。ここでいう学習とは過去の経験から現在の行動を修正することです。

高度な知性を持つ人間には個性もあり、学習もあり、さらには「予想」をすることができます。この予想がある限り、人には法則は通用しません。なぜなら、ある法則を用いて人間の行動を予想したとしても、その予想を聞いたならば、行動を変えることができるからです。

つまり私たちは、予想された未来を「今」変えることができるのです。格差社会が生まれる・・・子供が減る・・・そんな不安な未来が予想されている世の中ですが、「今」私たちが動けば、予想されている未来、今作られている法則を変えることができるのです。社会というゲームに主体的に参加し、積極的に働きかけることを通じて、能動的に変えていくことをゲームプレイヤーの知が教えてくれるのです。

未来を予測するな、創造せよ

このブログで私がなんども言っていることですが、これからは一人一人が何かを生み出す時代です。特別な人だけが創作活動をすることができると思っているかもしれませんが、これからは誰でも創作活動を目指すべきであり、アーティストになる時代であり、作品を残す時代です。これがアーティストの知になります。

私たちが残す作品はとてもみすぼらしくて、しょうもないものかもしれません。しかし、ミクロの小さなゆらぎが、マクロの大勢を動かすこともあると前述しました。誰も予想もしなかったものが、世界を動かすこともあるのです。

[speech_bubble type=”think” subtype=”L1″ icon=”d6.jpg” name=“管理人”] 素晴らしい本だったので、何度も再読しようと思います。[/speech_bubble]

 

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