北極の氷が溶けると海面は上がる?海氷と氷床の違い【いまさら聞けない】

「北極の氷で海面は上がる?」という見出しと、海に浮く薄い氷、陸地を覆う厚い氷を並べ、氷の種類による違いを紹介する表紙。 科学・歴史・文化
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氷が溶ければ海の水が増えて、海面が上がる。そう考えるのは自然ですが、海に浮いている氷と、陸に支えられている氷では事情が違います。

海氷が溶けることによる、直接の海面上昇は小さいものです。世界の平均海面を上げる主な原因は、陸の氷が海へ流れ込むことと、海水が温まって膨張することです。

ただし、北極域にはグリーンランドの氷床もあります。「北極の氷」という言葉だけでは、海に浮く氷を指しているのか、陸上の氷まで含むのかが分かりません。

まずは、身近なコップの氷から仕組みを整理してみましょう。「氷が減っている」「南極では増えている」というニュースも、何を比べた話なのかが見えてきます。

コップの氷が溶けても、水面がほとんど変わらない理由

真水に氷を浮かべたコップと、氷が溶けた後のコップ。両方の水面に同じ高さの破線を重ね、水位がほとんど変わらないことを示す。

コップの水に氷を浮かべると、一部が水面から出ています。その部分が溶ければ、余分な水として加わるように思えます。しかし、氷が底につかず自由に浮いていれば、全部溶けても水面の高さはほとんど変わりません。

「氷は水より軽い」だけでは、説明は終わらない

同じ体積の水と氷を比べると、氷のほうが質量は小さくなります。単位体積あたりの質量を表す「密度」が、水より小さいためです。氷が水に浮き、一部を水面から出しているのは、この違いによります。

ただし、これだけでは、溶けた後に水面が変わらない理由までは説明できません。もう一つ必要なのが、氷が押しのけている水の量です。

浮いている氷は、自分と同じ重さの水を押しのけている

水の中にある物体には、上向きの力である浮力が働きます。その大きさは、物体が押しのけた水に働く重力の大きさと同じです。これが「アルキメデスの原理」です。

氷が浮いたまま静止しているときは、上向きの浮力と下向きの重力がつり合っています。つまり、氷は自分と同じ重さの水を押しのけています。

たとえば、質量10gの氷なら、次のようになります。

  • 氷が押しのけている水の質量:10g
  • 氷が溶けてできる水の質量:10g

温度による体積変化を無視すれば、同じ質量の水なので体積も同じです。溶けてできた水は、氷が水中で押しのけていた空間にちょうど収まります。

水面から出ていた部分だけが、余分な水として上乗せされるわけではありません。 氷は溶けて水になると、質量を変えずに体積が小さくなります。

家庭で確かめるなら、浮かべた氷が底につかないようにし、水面の高さに印をつけて比較します。水温による体積変化や蒸発、こぼれた水も結果に影響するため、水面が完全に同じ位置にならない場合は、こうした条件も確認してください。

海水の場合は、塩分による小さな違いがある

北極点の下にあるのは陸地ではなく海です。海水が凍ってできる「海氷」にも、コップの氷と同じ浮力の仕組みが働きます。

ただし、海水と真水では密度が異なります。また、海水が凍るときには塩分の多くが氷の外へ出ていくため、海氷が溶けてできる水は、周囲の海水より塩分が少なくなります。

同じ温度、同じ質量で比べると、塩分の少ない水のほうが体積は少し大きくなります。この違いがあるため、海氷が溶けることによる海面への直接の影響は、厳密にはゼロではありません。

それでも、陸上の氷の減少や海水の熱膨張と比べると、その直接の影響は小さいものです。「浮いている氷だからまったく影響しない」と言い切るより、「直接の影響は小さい」と捉えるほうが正確です。

食塩水に真水の氷を浮かべても、この差を家庭のコップではっきり見分けるのは難しい場合があります。変化がごく小さく、水温や蒸発の影響も受けるためです。

海面を上げる陸の氷と、海水の熱膨張

海面上昇を考えるには、すでに海に浮いている氷だけでなく、海に新しく加わる水と、もともとある海水の体積変化を見る必要があります。

陸に支えられた氷が海へ移ると、水が加わる

南極大陸やグリーンランドには、陸地を広く覆う厚い氷があります。こうした大規模な氷の塊が「氷床」です。

たとえば、海面より高い陸地にある氷は、海水を押しのけていません。その氷が溶けて海へ流れ込めば、海の水そのものが増えます。氷そのものが陸から海へ流れ出すことも、海面上昇につながります。

コップに例えるなら、すでに浮いている氷が溶ける場合ではなく、コップの外から新しく水や氷を加える場合に当たります。

ここで区別したいのが「氷山」です。海に浮いている氷のすべてが、海水が凍ってできた海氷とは限りません。氷河や棚氷から割れ、海に浮かんでいる塊が氷山です。

陸に支えられていた氷が海へ移ることと、すでに浮いている氷山が溶けることは別です。氷山が浮いたまま溶ける場合も、海面への直接の影響は小さいものです。

北極域にはグリーンランドの氷床があり、南極大陸の周りには海氷もあります。「北極の氷は浮いていて、南極の氷は陸にある」と、地域名だけで分けることはできません。

棚氷は、陸の氷の流れを抑えるブレーキになる

氷河や氷床の氷が海へ張り出し、浮いている部分を「棚氷(たなごおり)」といいます。海水が凍ってできた海氷とは、成り立ちが違います。

棚氷には、背後にある氷河が海へ流れる速さを抑える、ブレーキのような働きがあります。棚氷が薄くなったり崩れたりすると、その働きが弱まり、陸の氷が海へ流れ出す速度が上がることがあります。

棚氷自体が溶ける直接の影響は小さくても、陸の氷の流出を通じて、海面上昇に関わるのです。

「どこでできた氷なのか」と「いま浮いているのか」を分けると、それぞれの違いを整理しやすくなります。

陸に支えられた氷から海に浮く棚氷へと続く断面図。沖には離れた氷山と薄い海氷があり、四つの氷の位置と浮き方を区別している。
氷の種類でき方・位置海面との関わり
海氷海水が凍り、海に浮く溶ける直接の影響は小さい
氷床・氷河の陸に支えられた部分主に陸で雪が積もってできた氷陸の氷や溶けた水が海へ加わると、海面上昇につながる
棚氷氷河・氷床が海へ張り出して浮く部分直接の影響は小さいが、陸の氷の流れを抑える働きがある
氷山氷河や棚氷から割れ、海に浮く塊すでに浮いている氷が溶ける直接の影響は小さい

海水は、温まることでも体積が増える

同じ容器に入った水を温まる前と後で比較した模式図。温度計の表示が上がった右側では水面が高くなり、熱膨張による体積の増加を示す。
海水の熱膨張を示す模式図。体積の変化は見やすく強調しています。

海面を上げる原因は、氷だけではありません。海水が温まると体積が増える「熱膨張」も、世界の平均海面を上げる主な原因です。

海に新しい水が加わらなくても、もともとある海水が膨らめば、海面は上がります。海面上昇を「溶けた氷の分だけ水が増える現象」と考えると、この変化を見落とします。

「氷が減った」「南極では増えた」は、何を比べた話なのか

海氷が広がる海域を上から見た図と、陸を覆う氷床の断面を対比。「海氷の広がり」と「氷床の重さ」は測る対象が異なることを示す。

海氷の「広がり」と、氷床の「質量」は別の指標です。さらに、同じ対象でも、見る期間によって増減の方向が異なることがあります。

北極海氷は、年ごとに増減しながら少ない状態が続いている

北極の海氷は冬に広がり、夏に小さくなります。長期の変化を調べるときには、同じ季節どうしを比べる必要があります。

NASAと米国の国立雪氷データセンター(NSIDC)によると、2026年の北極海氷は9月12日に年間最小となり、その広がりは約460万km²でした。2008年・2010年・2025年と並び、衛星観測で10番目に小さい値です。2026年が過去最小だったわけではありません。

一方、年間最小の広がりが小さかった20年分は、すべて2007~2026年に当たります。毎年一直線に減っているわけではありませんが、数十年前より海氷の少ない状態が続いています。

ここでいう「広がり」は、一定以上の割合を海氷が覆う海域の合計です。氷だけの面積や、氷全体の厚さ・質量を表しているわけではありません。

南極氷床の長期の減少と、2020~2024年の増加

氷床は雪が積もると増え、溶けた水や氷が海へ流れ出すと減ります。増えた分と減った分の差で決まるのが、氷床全体の質量の変化です。

NASAが示した2002年から2025年3月までの衛星データでは、グリーンランドと南極の氷床は、どちらも期間全体で見ると質量が減っています。

ただし、南極の近年の動きは違います。2026年に発表された研究では、南極氷床は2020~2024年の5年間に、全体として質量が増えたと報告されました。この期間の増加傾向は、年あたり約680億トンと推定されています。

この増加は、氷の流出が減ったからではありません。流出による損失も増えていましたが、それを上回るほど雪が多く降ったためです。研究では、大量の水蒸気を運ぶ「大気の川」と呼ばれる空気の流れが強まったことなどが、降雪の増加に関わると分析しています。

「2002年から2025年3月までの期間全体では減った」と「2020~2024年には増えた」は両立します。見ている期間が違うためです。今後も同じペースで増え続けるかどうかは、この5年間のデータだけでは判断できません。

また、これは陸上の氷床の質量についての話です。南極の周りに浮かぶ海氷の広がりは別の観測で、NSIDCによると、2026年の年間最大は衛星観測で3番目に小さい値でした。

氷のニュースを読むときは、次の3点を整理して確認すると、結果を取り違えにくくなります。

  1. 対象:海氷なのか、陸上の氷床や氷河なのか。
  2. 指標:広がりなのか、厚さや質量なのか。
  3. 期間:数年間の変化なのか、数十年間の変化なのか。

一つの地域や短い期間の結果を、そのまま地球全体の長期変化に置き換えることはできません。新しい研究を読むときも、従来の観測結果と何が違い、どの部分が両立するのかを見ることが大切です。

海氷が減る影響は、直接の海面上昇だけではない

白い海氷と暗い海面に届く太陽光を比較。上向きの反射の矢印は海氷側で太く、下向きの吸収の矢印は海面側で太く描かれている。

海氷が溶ける直接の影響が小さいからといって、減少を気にしなくてよいわけではありません。

白い雪や氷は太陽の光をよく反射します。一方、氷がなくなって現れる海面は、太陽光のエネルギーをより多く吸収します。海氷が減ると海が温まりやすくなり、さらに氷が溶けやすくなる働きがあります。

こうした変化の背景にある近年の温暖化の主因は、人間活動によって二酸化炭素などの温室効果ガスが増えたことです。

温室効果ガスは、地表などから出る赤外線を吸収し、地表側を含むさまざまな方向へ放射します。温室効果ガスが増えると、地球から宇宙へ熱が逃げにくくなります。赤外線を鏡のように反射しているわけではありません。

赤外線による熱の移動は、魔法瓶の保温・保冷の仕組みや、宇宙のAIデータセンターの冷却にも関わります。魔法瓶では放射による熱の出入りを抑え、宇宙機のラジエーターでは余分な熱を放射して捨てるという、使い方の違いがあります。

太陽活動も気温に影響しますが、NASAによると、1978年以降の衛星観測では、地球へ届く太陽エネルギーに長期的な増加傾向は見られません。最近の温暖化を、太陽活動が強まったためとは説明できません。

地球全体が長い期間で温暖化することと、ある地域で数年間に雪や氷が増えることは、同時に起こり得ます。

まとめ

海氷が溶けても海面への直接の影響が小さいのは、浮いている時点で、自分の重さに相当する海水を押しのけているためです。ただし、海氷が溶けてできる水と、周囲の海水との塩分の違いがあるため、厳密にゼロではありません。

一方、陸の氷が海へ流れ込むことや、海水が温まって膨張することは、世界の平均海面を上げる主な原因です。棚氷のように、陸の氷の流れを抑えることで間接的に関わる氷もあります。

「北極か南極か」「氷が増えたか減ったか」だけでは、海面への影響は分かりません。どの氷を対象に、何を測り、いつからいつまでの期間を比べたのか。その条件を見ると、身近なコップの氷の話と地球規模のニュースがつながり、理解しやすくなります。

参考までに。それでは!

参考資料

OpenStax『College Physics 2e』11.7 Archimedes’ Principle:https://openstax.org/books/college-physics-2e/pages/11-7-archimedes-principle

NSIDC「Does sea ice melt raise sea level?」:https://nsidc.org/learn/ask-scientist/does-sea-ice-melt-raise-sea-level

NSIDC「Why Ice Shelves Matter」:https://nsidc.org/learn/parts-cryosphere/ice-shelves/why-ice-shelves-matter

NASA「Arctic Sea Ice Shrinks to Its 2026 Minimum」(2026年10月7日):https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/arctic-sea-ice-shrinks-to-its-2026-minimum/

NSIDC「“Stranger Things” in the 2026 Arctic」(2026年10月7日):https://nsidc.org/sea-ice-today/analyses/stranger-things-2026-arctic

NASA「GRACE and GRACE-FO polar ice mass loss」(2025年12月11日更新):https://svs.gsfc.nasa.gov/31166/

Kolbeほか「Atmospheric rivers and winter sea ice drive recent reversal in Antarctic ice mass loss」『Communications Earth & Environment』(2026年):https://doi.org/10.1038/s43247-026-03242-3

ESA「Why is Antarctica’s mass increasing?」(2026年4月23日):https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/FutureEO/Space_for_our_climate/Why_is_Antarctica_s_mass_increasing

NSIDC「Sea Ice Index Daily and Monthly Image Viewer」:https://nsidc.org/data/seaice_index

NSIDC「Why Sea Ice Matters」:https://nsidc.org/learn/parts-cryosphere/sea-ice/why-sea-ice-matters

NASA「The Causes of Climate Change」:https://science.nasa.gov/climate-change/causes/

NASA「Is the Sun causing global warming?」:https://science.nasa.gov/climate-change/faq/is-the-sun-causing-global-warming/

資料確認:2026年11月4日

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