ハンナ・アーレントの本を読んでみたい方は、まずはこの本を読むことををお勧めする。有名な『全体主義の起源』に挑むのもいいが、たぶん挫折するだろう。私は2時間ほど頑張ってみたものの、それ以来本を開いたことはない笑
この本はアーレントの、
- 全体主義の起源
- エルサレムのアイヒマン
- 人間の条件
が、分かりやすくまとまっている。
なぜ全体主義は生まれたのか?なぜ反ユダヤ主義が起こったのか?アイヒマン問題が突きつけてくるものはなんなのか?を理解したい方には、最適な一冊だろう。
全体主義の恐ろしさについて、なぜ我々は知っておかなければならないのか。それは全体主義の最悪の事例が、ホロコーストだからだ。ユダヤ人600万人を虐殺したという歴史的事実は、全人類が知っておかなければならない。
全体主義について鋭く分析したのがユダヤ人の、ハンナ・アーレントだ。なぜ同胞が虐殺されなければならなかったのか。ホロコーストは、彼女の学問的原点となった。
全体主義は、大衆の願望を吸い上げる形で拡大していった政治運動である、とアーレントは捉えている。大衆と市民の意味は違う。
考え | 行動 | |
市民 | 自分たちの利益や、それを守るにはどう行動すればいいかということを明確に意識している | 自分たちの利益を代表する政党を選ぶ |
大衆 | なにが自分たちにとっての利益なのか分からない | 大衆は、国民国家という枠組みの中で選挙権は得たものの、自分にとっての利益がどこにあるのか、どうすれば自分が幸福になることができるのかわからない。 |
アーレントは次のように指摘する。誰に投票すればいいのかわからない「大衆」は、どの時代の、どこの国もいるし、高度な文明国においてすら政治に無関心な大衆は「住民の多数を占めている」と。投票率50%程度の日本を生きる私たちには耳の痛い話だ。
>池上彰氏の苦悩【政治・経済を分かりやすく説明しても投票率は過去最低】
だがこれだけでは大衆が危険そうでもないし、全体主義とも結びつきそうにない。大衆が全体主義と結びつくようになるのは、景気が悪化して社会に不穏な空気が広がった時だ。深く考えることをしない大衆が求めるのは、分かりやすいイデオロギーである。政治は単純ではない。複雑なものだ。それをあえて単純化した分かりやすい言葉に、大衆は惹かれていく。正しい複雑な話は無視され、正しくない危険な思想が受け入れられていく。そしてそれが、全体主義的な運動につながっていくとアーレントは考察している。
現代を生きる我々のことを指摘しているかのようである。耳障りのよい、単純なイデオロギーをもとに投票をしていないだろうか。ポピュリズムに流されやすい今だからこそ、読んでおきたい一冊だと思う。
アーレントは、分かりやすい政治思想や、分かったつもりにさせる政治思想を拒絶し、根気強く討議し続けることの重要性を説いた政治哲学者だと思います。「分かりやすさ」に慣れてしまうと、思考が鈍化し、複雑な現実を複雑なまま捉えることができなくなります。思考停止したままの生理的同調は、全体主義につながる そのように警鐘を鳴らしつづけたのです。位置No.1960
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