すぐにツールを使いたい方へ。このツールは、ブラウザ上で40Hzの正弦波(純音)を再生するだけのシンプルなものです。音量スライダーと再生時間の指定だけを備えた、実験・体験用途のツールです。インストールもアカウント登録も不要で、ページを開けばすぐに使えます。
この先の本文では、40Hzトーンとは何か、なぜ注目されているのか、このツールの使い方と注意点について書いています。ツールだけ使いたい方は上のリンクからどうぞ。背景を知ってから使いたい方は、このまま読み進めてください。
40Hzトーンとは何か

40Hzトーンとは、1秒間に40回振動する音のことです。
人間の耳に聞こえる音の範囲はおおむね20Hzから20,000Hzとされており、40Hzはその下限に近い、とても低い音です。参考までに、ピアノの最も低い鍵盤の音が約27.5Hzなので、40Hzはそれより少し高い程度です。日常で耳にする音に近いものを挙げるなら、大型トラックのエンジンが遠くでうなるような、体の奥に響く低い振動音をイメージしてもらうのが近いと思います。
この周波数が注目されている理由は、脳波の一種であるガンマ波との関連にあります。ガンマ波はおおむね30Hzから100Hzの帯域の脳波で、注意の集中や記憶の統合といった認知機能に関わっているとされています。中でも40Hz付近のガンマ波は特に研究対象として注目されており、「この脳波を外部からの刺激によって誘導できないか」という問いが、近年の研究の出発点になっています。

ただし、ガンマ波の具体的な機能や、外部刺激によるガンマ波誘導が人間の健康にどのような意味を持つかについては、まだ研究の途上にある段階です。この点は、この先の研究紹介を読む際にも前提として覚えておいてください。
主な研究の概要

40Hzの外部刺激に関する研究の中で最も広く知られているのは、MITのLi-Huei Tsai教授らによる一連の研究です。以下に主要な4本を時系列で紹介します。
いずれも公開済みの学術論文に基づく要約です。私自身はこの分野の専門家ではないため、関心を持った方はぜひ末尾の参考文献から原著論文にあたってください。
2016年 Nature誌
マウスを対象とした研究です。40Hzで点滅する光をマウスに見せたところ、アルツハイマー病と関連が深いとされるアミロイドベータというタンパク質が、脳の視覚野で減少したと報告されました。
この段階では刺激は光のみで、対象もマウスです。「40Hzの外部刺激が脳内環境に何らかの変化を起こしうる」という可能性を示した初期の研究として位置づけられていますが、マウスの脳と人間の脳では構造もサイズも大きく異なるため、この結果がそのまま人間に当てはまるかどうかは、この時点ではわかっていません。
2019年 Cell誌
同じTsaiグループによる研究で、今度は聴覚刺激が加わりました。マウスに40Hz周期の音刺激を与えたところ、記憶に関わる海馬という脳領域でもアミロイドベータの減少が確認されました。さらに、光と音を組み合わせると効果がより広い脳領域に及んだという結果も示されています。
こちらもマウスを対象とした研究であり、人間への効果を直接示すものではありません。また、マウスの実験で使われた刺激の条件(音圧、提示方法、刺激時間など)が人間にそのまま適用できるわけでもありません。
2022年 PLOS ONE誌
ここで初めて人間が対象になります。軽度アルツハイマー型認知症の患者15名に対し、40Hzの光と音を組み合わせた感覚刺激(GENUSプロトコルと呼ばれる)を1日1時間、3か月間にわたって実施した小規模なパイロット試験です。
脳の体積や認知課題のスコアなどに改善方向の所見が報告されていますが、論文の著者自身が被験者15名というサンプルサイズの小ささを明確な限界として記載しています。パイロット試験とは、本格的な大規模試験の前に実施する予備的な試験のことで、この結果だけで効果があると結論づけることはできません。
2025年 Alzheimer’s & Dementia誌
上記2022年試験の参加者のうち5名を、約2年間にわたって追跡した小規模な延長観察の報告です。安全性に大きな問題がなかったことや、脳波(EEG)上でいくつかの変化が観察されたことなどが述べられています。
ただし、被験者は5名です。これほど少人数の観察からは統計的に意味のある結論を引き出すことが難しく、著者も予備的な報告として位置づけています。
この研究全体に対する私の理解
4本の論文を通して見ると、「マウスで興味深い結果が出た」から「人間でも安全に試せそうだという予備的な手がかりが得られた」という段階にある、というのが現時点の状況だと私は理解しています。
大規模な臨床試験で人間への効果が確認されたわけではなく、医学的なエビデンスとして確立された段階には至っていません。
研究の刺激とこのツールの違い

ここで一つ、とても重要な区別を書いておきます。
上の研究で使われた聴覚刺激は、40Hzの連続的な純音ではありません。たとえばGENUSプロトコルの聴覚刺激は、25ミリ秒ごとに1ミリ秒の短い矩形パルス(ごく短いクリック音のようなもの)を繰り返す方式で、これを40Hzの周期で連続的に鳴らすものです。光の点滅刺激も同時に与えられています。
一方、このツールが再生するのは40Hzの連続正弦波、つまり途切れのない滑らかな低音です。波形も刺激の時間的構造もまったく異なります。
このツールは研究プロトコルを再現するものではありません。40Hzの連続純音がどんな音なのかを自分の耳で試すための実験用ツールです。研究と同じ刺激を自宅で再現できるわけではないという点は、はっきり理解した上で使ってください。
なぜこのツールを作ったのか
私が40Hzトーンに興味を持ったきっかけは、上で紹介したMITの研究を知ったことでした。論文の内容を読んでいくうちに、「そもそも40Hzの音ってどんな音なんだろう」と単純に聞いてみたくなったのですが、手軽に試す手段が意外と少ないことに気づきました。
YouTubeで「40Hz tone」と検索すれば動画はいくつも出てきます。しかし、YouTubeの音声はアップロード時に再エンコードされるため、元の音源と同一条件での検証用途には向きにくいと感じました。途中で広告が入ることもあります。
スマートフォンのアプリも試しましたが、広告表示、課金誘導、不要な機能の山、英語のみのUI、といった具合で、「40Hzを聞いてみたいだけ」という目的に対しては過剰なものばかりでした。
私がほしかったのは、ブラウザを開いてボタンを押せば40Hzが鳴り、音量と時間を調整できる、それだけのツールでした。ちょうどよいものが見つからなかったので、自分で作ることにしました。
ツールの使い方
ここからは、実際にツールを使うときの操作手順を説明します。

手順1:ページを開く
上のリンク、または記事末尾のリンクからツールのページを開いてください。ブラウザだけで動くので、パソコンでもスマートフォンでも使えます。ただし、後述する理由から、スマートフォンの内蔵スピーカーでは40Hzの音をまともに聞くことはできません。ヘッドフォンかイヤホンを用意してください。
手順2:音量を確認する
ページを開くと、音量を調整するスライダーがあります。初期値は低めに設定してありますが、再生を始める前に必ずスライダーが小さい値になっていることを目で確認してください。40Hzの低音は、ヘッドフォンで聞くと予想以上に頭や体に響くことがあります。
手順3:再生時間を指定する(任意)
再生時間を指定する欄があります。1秒から600秒の範囲で再生時間を指定できます。指定した時間が経過すると自動で再生が止まります。空欄のまま再生を始めた場合は、手動で停止するまで鳴り続けます。
初めて使うときは、まず10秒以下に設定して試すことをおすすめします。
手順4:再生ボタンを押す
再生ボタンを押すと、40Hzの正弦波が鳴り始めます。再生中は、経過時間や残り時間が画面上に表示されます。
手順5:停止する
停止ボタンを押せば、いつでも再生を止められます。再生時間を指定していた場合でも、途中で停止できます。不快感や違和感があったら、迷わず停止してください。
できること、できないこと
機能はあえて絞っています。
再生できるのは40Hzの正弦波のみです。周波数を変更する機能はありません。音量はスライダーで自由に調整できます。再生時間は1秒から600秒の範囲で指定するか、指定せず手動停止にすることもできます。
逆に、波形の種類を変えたり、複数の周波数を同時に鳴らしたり、録音したりする機能はありません。40Hzの連続純音を聞く、という一つの目的だけに絞ったツールです。
再生環境について

40Hzは非常に低い周波数です。再生に使う機器によって聞こえ方が大きく変わるため、使う前にこの節の内容を把握しておいてください。
スマートフォンやノートPCの内蔵スピーカーでは聞けないかも
スマートフォンやノートPCの内蔵スピーカーは、40Hzの基音を十分に再生しにくい構造をしています。
理由はスピーカーの大きさにあります。低い音を再生するには、スピーカーの振動板がある程度の大きさを持っている必要があります。スマートフォンやノートPCの内蔵スピーカーは筐体の制約上きわめて小さく、40Hzのような低い周波数を音圧として十分に出力するのが物理的に難しい構造です。
ツールの再生ボタンを押して何か音が聞こえたとしても、それは40Hzの基音ではなく、スピーカーの振動板が無理に動こうとして生じたノイズや、基音の整数倍の周波数にあたる高調波成分(80Hz、120Hzなど)である可能性があります。「聞こえている=40Hzが出ている」とは限らないという点に注意してください。
推奨する再生機器
40Hzをきちんと聞くには、以下のいずれかの機器が必要です。
密閉型またはオーバーイヤー型のヘッドフォンが最もおすすめです。耳を覆う構造によって耳との間に閉じた空間ができ、低域の音圧が逃げにくくなるため、40Hzのような低い音でも比較的正確に聞き取れます。左右の耳に直接音が届くため、部屋の音響環境にも左右されません。
カナル型イヤホン(耳栓のように耳の穴に差し込むタイプ)も選択肢になります。耳の中で密閉されるため低域の再現性が比較的高く、ヘッドフォンほどではないものの40Hz帯の音を聞くことができます。
ウーファー付きの外付けスピーカーでも再生は可能ですが、部屋の形状、壁の材質、スピーカーの設置位置などによって低音の聞こえ方が変わりやすいため、安定した聴取という点ではヘッドフォンに劣ります。
なお、骨伝導イヤホンは構造上、低周波の再現性が製品ごとに大きくばらつきます。40Hz帯の再生を安定して行える骨伝導イヤホンは少ないため、この用途にはあまり向いていません。
本当に40Hzが出ているか確認する方法
ソフトウェア側の精度について心配する必要はありません。このツールが内部で使っているWeb Audio APIのOscillatorNodeに40Hzを指定した場合、ブラウザが生成する電気信号は正確に40Hzです。問題になるのは、その信号を音に変換するスピーカーやイヤホンの物理的な性能です。
自分の再生環境で40Hzが出ているかを簡易的に確認したい場合は、スマートフォンのスペクトラムアナライザーアプリが使えます。iOSであれば「Spectrum View」、Androidであれば「Spectroid」といったアプリで、再生中の音をスマートフォンのマイクで拾い、周波数スペクトルを表示させることができます。40Hz付近にピークがあるかを目安として確認できます。
ただし、スマートフォンのマイク自体にも周波数特性があり、環境ノイズの影響も受けるため、あくまで簡易的な目安としての確認方法です。
技術的な仕組み

このツールがどう動いているのか、技術的な背景に関心がある方のために書いておきます。
ツール全体はWeb Audio APIというブラウザに標準で組み込まれている機能だけで動いています。追加のプラグインや外部ライブラリ、音声ファイルは一切使っていません。
音の生成にはOscillatorNodeというオブジェクトを使っています。これは指定した周波数と波形で音を生成するもので、このツールでは40Hzの正弦波(サイン波)を指定しています。40Hzの連続純音をシンプルに出すという目的に対して、倍音を含まない正弦波が最も素直な選択だったためです。
音量の制御にはGainNodeを使っています。画面上のスライダーを動かすと、その値がGainNodeに渡されて出力音量が変わる仕組みです。
再生時間の制御は、JavaScriptの標準的なタイマー機能で実装しています。指定した秒数が経過したらOscillatorNodeを停止させるだけの単純な処理です。
すべての処理はブラウザの中で完結しています。外部サーバーへのデータ送信や外部からの音声ファイルの読み込みは一切行っていません。
ソースコードに関心がある方のために、実装の中核だけをわかりやすく簡略化して示します↓
// AudioContextの生成
const audioCtx = new (window.AudioContext || window.webkitAudioContext)();
// 40Hzの正弦波を生成するOscillatorNode
const oscillator = audioCtx.createOscillator();
oscillator.type = 'sine';
oscillator.frequency.setValueAtTime(40, audioCtx.currentTime);
// 音量を制御するGainNode
const gainNode = audioCtx.createGain();
gainNode.gain.setValueAtTime(0.1, audioCtx.currentTime); // 初期音量は低めに
// ノードを接続して再生
oscillator.connect(gainNode);
gainNode.connect(audioCtx.destination);
oscillator.start();
これがツールの本質です。数行のコードで40Hzの正弦波を生成し、GainNodeを経由して音量を制御した上でスピーカーやヘッドフォンに出力しています。
使うときの注意

このツールは実験・体験用途で作ったものです。医療機器ではなく、医療目的のツールでもありません。40Hzの音を聞くことによる健康上の効果は確立されていません。以下の注意事項を読んでから使ってください。
音量と時間について
音量は必ず小さい値から始めてください。40Hzの低音は、特に密閉型のヘッドフォンで聞いた場合、頭蓋の内側に直接響くような独特の圧迫感があります。日常で聞き慣れた音とはかなり感覚が異なるため、最初から音量を上げると不快感や驚きにつながることがあります。
初回はスライダーを最小付近にした状態で、10秒以下の短い時間から試してみてください。問題がなければ、少しずつ時間を延ばしていくのがよいと思います。
使用を控えたほうがよい場合
以下に該当する方は使用を控えてください。
体調がすぐれないとき、頭痛があるとき、強い疲労を感じているときは使わないでください。
てんかんの既往がある方は使用を控えてください。40Hzの音刺激とてんかん発作の関連について明確な報告は多くありませんが、同じ40Hzの光刺激については光感受性てんかんとの関連が議論されています。音と光では刺激の種類が異なりますが、安全側に倒して避けておくのが賢明です。
聴覚障害、耳鳴りの症状がある方も、症状を悪化させる可能性があるため使用を控えてください。
心疾患や循環器系の疾患がある方は、低周波の振動が身体に及ぼす影響が十分に検証されていないため、使用を控えてください。
精神疾患の治療中の方、不安障害やパニック障害の既往がある方は、予期しない音刺激が症状の引き金になる場合があるため、使用を控えてください。
妊娠中の方は、安全性に関するデータが存在しないため、使用を控えてください。
上記以外でも、何らかの持病がある方や通院中の方は、自己判断での使用を避け、必要に応じて医師に相談してください。
不快な症状が出たとき
再生中に頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、胸の圧迫感、その他なんであれ不快な症状を感じた場合は、すぐに再生を停止してください。症状が続く場合は医療機関に相談してください。
周囲への配慮
スピーカーで再生する場合、40Hzの低音は壁や床を通り抜けやすい性質があります。自分の部屋ではかすかにしか聞こえなくても、隣室には振動として伝わっていることがあります。集合住宅では特に注意が必要です。ヘッドフォンやイヤホンでの使用をおすすめします。
ツールを使う
ブラウザで開けばすぐに使えます。インストールもアカウント登録も不要です。まずはヘッドフォンかイヤホンを装着して、小さい音量で数秒間だけ再生してみてください。40Hzの連続純音がどんな音なのか、自分の耳で確かめることができます。
参考文献・参考サイト
本文中で触れた研究や技術資料は、以下を参照しました。
- Nature(2016)
Iaccarino HF, Singer AC, Martorell AJ, et al. “Gamma frequency entrainment attenuates amyloid load and modifies microglia.”
https://www.nature.com/articles/nature20587 - Cell(2019)
Martorell AJ, Paulson AL, Suk HJ, et al. “Multi-sensory Gamma Stimulation Ameliorates Alzheimer’s-Associated Pathology and Improves Cognition.”
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30879788/ - PLOS ONE(2022)
Chan D, Suk HJ, Jackson BL, et al. “Gamma frequency sensory stimulation in mild probable Alzheimer’s dementia patients: Results of feasibility and pilot studies.”
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278412 - Alzheimer’s & Dementia(2025)
Chan D, de Weck G, Jackson BL, et al. “Gamma sensory stimulation in mild Alzheimer’s dementia: An open-label extension study.”
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41137616/ - MDN Web Docs: OscillatorNode
https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/API/OscillatorNode - MDN Web Docs: GainNode
https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/API/GainNode - YouTube Help: YouTube recommended upload encoding settings
https://support.google.com/youtube/answer/1722171?hl=en - Spectroid(Google Play)
https://play.google.com/store/apps/details?id=org.intoorbit.spectrum&hl=ja

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