「優性遺伝」と聞くと、なんとなく「優れた遺伝」のように感じませんか。
反対に「劣性遺伝」と聞くと、「劣っている遺伝」「あまり良くない遺伝」のように思えてしまうかもしれません。言葉だけ見ると、そう受け取ってしまうのも無理はないと思います。
でも、ここは最初にはっきりさせておきたいところです。
優性は、優れているという意味ではありません。劣性も、劣っているという意味ではありません。
優性遺伝・劣性遺伝とは、かんたんに言えば、親から受け継いだ遺伝子の型が組み合わさったときに、どちらの特徴が表に現れるかを表す言葉です。
最近では、この誤解を避けるために、優性を「顕性」、劣性を「潜性」と呼ぶことも増えています。
この記事では、「優性遺伝・劣性遺伝って何?」「顕性・潜性とは何が違うの?」「劣性って悪い意味なの?」という疑問を、できるだけ日常の感覚に近づけながら整理していきます。
中心になるのは、病気の話というより「親から受け継いだ特徴が、どう現れるか」です。病気の遺伝形式についても後半で少し触れますが、まずは言葉の意味と基本的な考え方を見ていきます。
優性遺伝・劣性遺伝とは、特徴の「現れ方」の話

まず結論から言うと、優性遺伝・劣性遺伝は、遺伝子の良し悪しを決める言葉ではありません。
親から受け継いだ遺伝子の型の組み合わせによって、どちらの特徴が表に現れるかを説明する考え方です。
人は多くの場合、ある遺伝子について、父親から1つ、母親から1つ、合計2つの型を受け継ぎます。この「遺伝子の型」のことを、専門的には対立遺伝子、またはアリルと呼びます。
いきなり専門用語が出ると身構えてしまいますが、ものすごくざっくり言えば「同じ遺伝子のタイプ違い」くらいに考えるとわかりやすいです。
たとえば、ある特徴に関係する遺伝子の型として、Aとaがあるとします。この2つを受け継いだときに、Aの特徴が表に現れるなら、Aはaに対して「優性」、今の言い方では「顕性」と呼ばれます。
反対に、aの特徴が、aが2つそろったときに表に現れるなら、「劣性」、今の言い方では「潜性」と呼ばれます。
ざっくりまとめると、こうです。
| 従来の言い方 | 現在使われる言い方 | ざっくりした意味 |
|---|---|---|
| 優性 | 顕性 | 組み合わせの中で表に現れやすい |
| 劣性 | 潜性 | 条件がそろうと表に現れる |
考え方そのものは、そこまで難しくありません。
ややこしいのは、やはり言葉の印象です。「優性」と言われると良さそうに見えますし、「劣性」と言われると悪そうに見えます。名前のせいで、だいぶ損をしている言葉だと思います。
でも実際には、優性・劣性は「優秀かどうか」ではなく、「特徴がどう現れるか」の話です。
なぜ「顕性」「潜性」という言い方が使われるようになったのか
「優性」「劣性」という言葉は、昔から使われてきました。
ただ、日本語として見ると、かなり誤解されやすい言葉です。「優」は優れている、「劣」は劣っている、という意味に見えてしまいます。これでは、遺伝子に優劣があるように感じてしまっても不思議ではありません。
そこで、最近では「顕性」「潜性」という言い方も使われるようになっています。
顕性の「顕」は、表にあらわれるという意味です。潜性の「潜」は、潜んでいる、隠れているという意味です。
つまり、顕性は「表に現れやすい特徴」、潜性は「隠れていることがある特徴」と考えるとわかりやすいです。
個人的には、「優性・劣性」よりも「顕性・潜性」の方が、余計な誤解が少ない言葉だと思います。優劣ではなく、表に現れているか、奥に潜んでいるか。その方が、実際の意味に近いです。
ただし、検索や日常会話では、今でも「優性遺伝」「劣性遺伝」という言葉がよく使われます。なので、今の段階では「優性=顕性」「劣性=潜性」とセットで覚えておくのが現実的です。
Aとaで考えるとわかりやすい

ここからは、少しだけ具体的に見ていきます。
たとえば、ある特徴について、Aという型と、aという型があるとします。ここでは話を単純にするため、Aがaに対して顕性、aがAに対して潜性だと考えてみます。
組み合わせと、表に現れる特徴は次のようになります。
| 受け継いだ組み合わせ | 表に現れる特徴 |
|---|---|
| AA | Aの特徴 |
| Aa | Aの特徴 |
| aa | aの特徴 |
AAなら、Aの特徴が現れます。Aaでも、Aの特徴が現れます。そして、aaになったときだけ、aの特徴が現れます。
ここで大事なのは、Aが「強いから勝った」という話ではないことです。aが「弱いから負けた」という話でもありません。
単に、Aとaが一緒にあるときは、Aに対応する特徴の方が表に現れる、というだけです。
正確に言うと、「Aはいつでも絶対に顕性」というより、「Aはaに対して顕性」と考える方が近いです。顕性・潜性は、遺伝子の型どうしの関係を表す言葉だからです。
とはいえ、最初から難しく考えすぎる必要はありません。まずは「顕性は表に現れやすい」「潜性は条件がそろうと現れる」と押さえておけば大丈夫です。
表に出ていない型は、消えたわけではない

Aaの組み合わせでは、表に現れるのはAの特徴です。
では、aはどこへ行ったのでしょうか。
答えは、どこにも行っていません。ちゃんと体の中に受け継がれています。ただ、表に現れていないだけです。
ここは少し言い方に注意が必要です。「潜性の特徴を持っている」というより、正確には「潜性の特徴につながる遺伝子の型を持っている」と考えた方がよいです。
スマホで言えば、画面には出ていない設定項目が、内部には残っているような感じに近いかもしれません。見えていないからといって、消えたわけではありません。
遺伝でも同じで、表に現れていない型が、なくなったわけではないのです。
だから、親には見えていなかった特徴が、子どもに現れることがあります。

たとえば、父親も母親も「Aa」だったとします。この場合、父親も母親も、見た目にはAの特徴が現れています。でも、2人ともaの型も持っています。
この2人から子どもが生まれる場合、組み合わせは次のように考えられます。
| 母 A | 母 a | |
|---|---|---|
| 父 A | AA | Aa |
| 父 a | Aa | aa |
この場合、子どもの組み合わせは、AAが25%、Aaが50%、aaが25%という形で考えられます。
AAならAの特徴が現れます。AaでもAの特徴が現れます。一方で、aaになると、aの特徴が表に現れます。
つまり、親にはAの特徴が出ていても、子どもがaaの組み合わせになると、親には見えていなかったaの特徴が現れることがあります。
これが、「親にはないように見える特徴が、子どもに出る」理由のひとつです。
ただし、25%というのは「4人子どもがいれば必ず1人はaaになる」という意味ではありません。毎回の妊娠ごとに、その可能性があるという意味です。
ここも勘違いしやすいところです。サイコロを4回振ったら必ず1回は1が出る、というわけではないのと少し似ています。
もちろん、現実の人間の特徴は、これだけで全部説明できるわけではありません。ただ、「表に現れていない型も受け継がれていることがある」と考えると、遺伝の見え方が少し変わると思います。
血液型で考えると、少しイメージしやすい

身近な例としてよく使われるのが、ABO式血液型です。
AとOを持っている人は、A型になります。BとOを持っている人は、B型になります。OとOを持っている人は、O型になります。
ここだけ見ると、OはAやBと一緒にあると表に現れにくいことがわかります。
一方で、AとBを持っている人はAB型になります。AとBは、どちらか一方だけが相手を隠すのではなく、両方が表に現れます。こういう関係は「共優性」または「共顕性」と呼ばれます。
血液型は身近なので例にしやすいですが、実は少し応用編です。
「Aが勝つ」「Bが勝つ」「Oが負ける」という話ではありません。A、B、Oという型の組み合わせによって、表に現れる血液型が変わるという話です。
なお、ここでは一般的なABO式血液型の説明に限っています。まれな血液型や医療上の判定は、また別の話になります。
血液型占いのように性格の話へ広げたくなる人もいるかもしれませんが、ここではあくまで遺伝の組み合わせの例として見てください。話を広げすぎると、別の記事になってしまいます。
耳あかのタイプも、身近な例になる
もうひとつ、人間の身近な例として耳あかのタイプがあります。
耳あかには、湿ったタイプと乾いたタイプがあります。この違いには、ABCC11という遺伝子が関係していることが知られています。
ABCC11遺伝子のある部分について、GGまたはGAの人は湿ったタイプ、AAの人は乾いたタイプになりやすいと説明されます。
ここで出てくるGやAは、DNAを表す文字です。さっきのA/aの例とは別物だと思ってください。同じAという文字が出てくるので、ここは少しややこしいです。
この例では、Gを1つでも持つと湿ったタイプになりやすく、Aが2つそろうと乾いたタイプになりやすい、と考えるとわかりやすいです。
ただし、これも「湿っている方が良い」「乾いている方が悪い」という話ではありません。もちろん、その逆でもありません。
ただ、遺伝子の型の組み合わせによって、どちらの特徴が表に現れやすいかが変わるという話です。
こういう身近な例で見ると、優性・劣性は価値の話ではないとわかりやすくなります。耳あかに優劣をつけられても、正直ちょっと困りますよね。
優性の特徴の方が多いとは限らない
ここも、つまずきやすいところです。
「優性」と聞くと、なんとなく「そちらの特徴を持つ人の方が多いのかな」と思ってしまうかもしれません。
でも、優性・顕性は「人数が多い」という意味ではありません。
顕性とは、2つの型が組み合わさったときに表に現れやすいという意味です。その特徴を持つ人が多いか少ないかは、また別の話です。
つまり、優性だから多数派とは限りません。劣性だから少数派とも限りません。
大事なのは、優性・劣性を「多い少ない」の話として見ないことです。あくまで、特徴の現れ方を説明する言葉です。
人間の特徴は、単純な優性・劣性だけでは決まらない

ここまで、Aとaのようなシンプルな例で説明してきました。
ただし、人間の特徴は、すべてがこのように単純に決まるわけではありません。
たとえば、身長、体格、肌の色、目の色、体質、病気のなりやすさなどは、複数の遺伝子が関わることが多いです。さらに、食事、生活環境、運動、日光、年齢など、遺伝以外の要素も関わります。
たとえば目の色も、昔は「茶色が優性で、青が劣性」のように単純に説明されることがありました。でも、実際にはもっと複雑です。ひとつの遺伝子だけでスパッと決まるというより、複数の遺伝子が関わって色の違いが生まれます。
つまり、優性・劣性、顕性・潜性は、遺伝を理解するための入り口としてはとても大事です。
でも、それだけで人間のすべてを説明できるわけではありません。
ここを忘れると、「親がこうだから子どもも必ずこうなる」といった、少し雑な理解になってしまいます。
遺伝は、思っているよりずっと複雑です。でも、だからこそ面白いところでもあります。
病気の遺伝にも「顕性」「潜性」という言葉は使われる
顕性遺伝・潜性遺伝という言葉は、病気の遺伝形式を説明するときにも使われます。
たとえば、常染色体顕性遺伝では、ある遺伝子の片方のコピーに病気と関係する変化があるだけで、症状や体質に関わることがあります。
一方、常染色体潜性遺伝では、両方のコピーに病気と関係する変化がそろったときに、症状が現れることがあります。
たとえば、両親が同じ病気に関係する変化を1つずつ持つ保因者だった場合、子どもは発症する可能性が25%、保因者になる可能性が50%、その変化を受け継がない可能性が25%と説明されることがあります。
ただ、ここはかなり慎重に扱うべきところです。
病気の遺伝は、単純な表だけで判断できるものではありません。同じ「顕性」「潜性」という言葉が使われても、病気の種類、遺伝子の変化、家族歴、検査結果、症状の出やすさによって意味合いが変わります。
また、遺伝子の変化は親から受け継ぐこともあれば、本人で新しく生じることもあります。
家族に特定の病気がある、遺伝の可能性が気になる、検査結果の意味がよくわからない。こういう場合は、ネット記事だけで判断せず、医師や遺伝カウンセリングなどの専門家に相談してください。
この記事で伝えたいのは、病気の診断ではありません。まずは、親から受け継いだ遺伝子の型が、どう表に現れたり、表に現れなかったりするのかを知るための基本として読んでもらえればと思います。
まとめ
優性遺伝・劣性遺伝とは、親から受け継いだ特徴がどう表に現れるかを説明するときに使われる言葉です。
現在では、優性は「顕性」、劣性は「潜性」と呼ばれることも増えています。
顕性は、組み合わせの中で表に現れやすい特徴です。潜性は、条件がそろうと表に現れる特徴です。
潜性の型は、消えたわけではありません。表に現れていないだけで、次の世代に受け継がれることがあります。そのため、親には見えていなかった特徴が、子どもに現れることもあります。
一方で、人間の特徴は、単純な優性・劣性だけで決まるものばかりではありません。身長、目の色、体質、病気のなりやすさなどには、複数の遺伝子や環境が関わることが多いです。
というわけで、優性遺伝・劣性遺伝は「どちらが優れているか」ではなく、「どちらの特徴が表に現れやすいか」の話です。
「劣性」という言葉を見ても、必要以上に悪い意味で受け取らなくて大丈夫です。遺伝の世界では、見えているものだけがすべてではありません。そこがややこしくて、同時におもしろいところだと思います。
よくある質問
優性遺伝は、優れた遺伝という意味ですか?
いいえ。優性遺伝は、優れた遺伝という意味ではありません。
2つの遺伝子の型が組み合わさったときに、表に現れやすい特徴を表す言葉です。現在は「顕性遺伝」と呼ばれることも増えています。
劣性遺伝は、悪い遺伝という意味ですか?
いいえ。劣性遺伝は、悪い遺伝という意味ではありません。
劣性、現在の言い方では潜性は、表に現れにくいことがある特徴を表します。条件がそろえば表に現れますし、価値が低いという意味ではありません。
顕性と潜性は、優性と劣性と同じ意味ですか?
基本的には、顕性が優性、潜性が劣性に対応します。
ただし、顕性・潜性の方が「表に現れる」「潜んでいる」という本来の意味に近く、誤解されにくい言い方です。
親にない特徴が子どもに出るのはなぜですか?
親に見えていないだけで、その特徴につながる遺伝子の型を持っていることがあるからです。
たとえば、父親も母親もAaのような組み合わせだった場合、見た目にはAの特徴が現れます。でも、2人ともaの型も持っています。子どもがaaの組み合わせになると、親には表れていなかったaの特徴が出ることがあります。
優性の特徴の方が人数も多いのですか?
いいえ。優性、つまり顕性は、人数が多いという意味ではありません。
2つの型が組み合わさったときに、表に現れやすいという意味です。顕性だから多数派、潜性だから少数派とは限りません。
血液型は優性・劣性で決まりますか?
ABO式血液型は、優性・劣性だけでなく、共顕性という考え方も関わります。
AとBはどちらも表に現れるため、AとBを持つとAB型になります。一方、OはAやBと組み合わさると表に現れにくいため、AOならA型、BOならB型になります。
病気の遺伝も優性・劣性で説明できますか?
病気の遺伝形式を説明するときにも、顕性遺伝・潜性遺伝という言葉は使われます。
ただし、病気の遺伝はとても専門的です。同じ「顕性」「潜性」という言葉が使われても、病気の種類、遺伝子の変化、家族歴、検査結果などによって意味合いが変わります。
心配な場合は、ネット記事だけで判断せず、医師や遺伝カウンセリングに相談してください。
参考URL
日本医学会「遺伝学用語改訂に関する最終報告」
https://jams.med.or.jp/glossary_committee/doc/2021material_s3.pdf
教育出版「『顕性形質』と『潜性形質』について」
https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/textbook/chuu/rika/document/ducu3/qa/qa-019.html
NCBI Bookshelf「ABO Blood Group」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK100894/
東北メディカル・メガバンク機構「ABCC11|ようこそゲノムの世界へ」
https://www.megabank.tohoku.ac.jp/genome/archives/tag/abcc11
NHGRI「Polygenic Trait」
https://www.genome.gov/genetics-glossary/Polygenic-Trait
MedlinePlus「Autosomal dominant」
https://medlineplus.gov/ency/article/002049.htm
MedlinePlus「Autosomal recessive」
https://medlineplus.gov/ency/article/002052.htm
MedlinePlus Genetics「Is eye color determined by genetics?」
https://medlineplus.gov/genetics/understanding/traits/eyecolor/

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