東浩紀をもっと好きになれる本『ゲンロン戦記』

本の感想
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出版不況と言われる世の中で、ゲンロンという出版社を立ち上げた男がいる。東浩紀という男だ。見た目は薄毛で肥満。そして異常なほど早口で声が高い。2017年、ぼくが東氏に抱いた最初の感想はいいものではなかった。しかしそれ以来、東氏の本を購入し、ニコ生でときどき課金している。彼の圧倒的な知性に魅せられているのだ。

見た目はよくないと書いたのだが、東氏の若かりし頃の写真を見ると普通にカッコイイ。髪は薄くないし、太ってもいない。眼光が鋭く、一目見て「あ、頭のキレる人だ」と分かる。いったいなぜ、こんなにも見た目が変わってしまったのだろう。本書を読むとそれが分かる。本書は、哲学者・批評家の東氏が畑違いの経営という世界に足を踏み出し、経営者として小さな出版社を存続させるために苦闘してきた記録が綴られている。

会社経営に苦悩する東浩紀氏のエピソードを知ると、東氏に親近感が沸くと思う。意外とおっちょこちょいなのだ。ただ、おっちょこちょいという表現が正しいのか分からない。経営者なのに売上と利益の違いすら分からず、本の利益ではなく売上の3分の1を被災地に寄付し、利益がまったく残らずに会社が傾いたというエピソードが書かれている。一読者としては「天才でもそんなことすら分からないまま経営したりするんやなぁ」と笑ってしまったが、社員としてはたまったものじゃない。疲弊して辞めていった社員も多いようだ。そんな経営者の下で働きたくないよね?

こんなおっちょこちょいのエピソードは1つや2つではない。何個もある。そして同じようなミスを繰り返していたりもする。本や動画でキレキレな話をする東氏は、そこにはいない。ぼくたちと同じような、凡庸な人間がいる。あずまんという愛称がつけられ、愛される理由がわかったりもする。

東氏やゲンロンを知らない方には、まずは東氏の著作『ゲンロン0』から入ることをオススメしたい。第71回毎日出版文化賞を受賞している作品である。東氏の哲学者・批評家としての凄まじさが分かる一冊だ。

ゲンロン0を読み終えたとき、きっと「東浩紀とはなにものだ?そんな人が作った会社ゲンロンとはいったいなんだ?」という疑問が思考を圧迫しているはずだ。そうなったときに、ゲンロン戦記を手に取ってもらいたい。東浩紀氏がゲンロンを作った理由、ゲンロンが進もうとしている方向が分かると思う。(ゲンロン戦記を読んで、ぼくはようやく分かった。)

ぼくは高校・大学と理系だった。頭の悪い理系あるあるなのだけれど、「文系ってなんのためにあるの?」とずっと思っていた。法律とか経済ならまだ分かるけれど、文学とか哲学とかは意味不明だったし、世の中の役に立つイメージがなかった。しかし、いまは文学や哲学などの文系的要素が必要なのだと心底思っている。どれだけ科学技術が進歩しても、そこに文学や哲学などの文系的要素がなければ人間は幸せになれないのだ。だけれども今の日本では文系的要素を軽視している。大学の文系不要論もあるくらいだ。そんな風潮の中で、会社を立ち上げ、権威や寄付などに頼らず、日本に必要な文系的要素を築き上げようとした人がいる。

数十年後、「ゲンロンがあったから」と、多くの場面で言われることになるだろう。そしてゲンロン戦記は、これから幾度となく読まれつづける本になるのだと思う。

 

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