恥ずかしい話をします。
私は丸1年以上、IT界隈で飛び交う「YAML(ヤムル)」という言葉を、ブロガーなら誰でも知っている「YMYL」のことだと思い込んでいました。
「AI時代はYAMLが重要だよね」と誰かが言うたびに、 「ああ、なるほど。AIが嘘の健康情報や金融情報を量産する時代だから、YMYL(Your Money or Your Life)の信頼性チェックがより厳しくなる、という話ですね」 と脳内で勝手に変換して、したり顔で頷いていたわけです。
恥ずかしいのは、勘違いに気づいた瞬間ではありません。 恥ずかしいのは、この1文字の違いが、私の思考とAIの使い方を根本から変えてしまったということなのです。
「YAML」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? もし聞いたことがあるなら、それが何なのか、ちゃんと説明できるでしょうか?
正直に言うと、私はできませんでした。 ですが今なら、はっきりと分かります。
YAMLは、単なるデータ形式ではないのです。 それは道路の真ん中に引かれた白線だったのです。
1. 道路に白線がないと、どうなるでしょうか?
想像してみてください。 幅10メートルの道路があります。でも、対向車線との境界を示す白線が消えている。
その道を運転できるでしょうか?
できなくはないでしょう。 ですが、視線は前方ではなく、常に対向車に向くはずです。 「ぶつからないように」「はみ出さないように」と、神経をすり減らし続けながら。
白線がないだけで、人は前に進めなくなるのです。
これが、YAML(ヤムル)を使う前の私でした。 いや、正確に言えば、YAMLの意味を理解する前の私、というべきでしょうか。
2. 「YAML」とは何か?(5歳児に説明するなら)
さて、YAMLとは何でしょうか?
結論から言うと、「コンピュータに指示を出すときの、箇条書きルール」です。
従来のデータ形式、たとえばJSONというものは、こんな風に書きます:
{
"今日やること": {
"1番目": "買い物",
"2番目": "掃除"
}
}
記号だらけですよね。人間には、正直読みづらいのです。
ですが、YAMLならこうなります:
今日やること:
- 買い物
- 掃除
どうでしょう? 人間が普段メモする形に、限りなく近いと思いませんか? それでいて、コンピュータも正確に読める。
これだけなのです。魔法のコードではありません。 ただの「箇条書き」です。
つまり、YAMLは「人間が読める形で、構造を正確に伝えるためのデータ形式」というわけですね。
ですが、この「ただの箇条書き」が、思考とAIの間に白線を引くのです。
【補講】きれいな白線を引くための「3つのルール」
「理屈は分かったけれど、実際に書こうとするとエラーになりそう」 そんな不安がある方のために、これだけ覚えておけば大丈夫というコツをお伝えします。
白線を引くための塗料は、「コロン(:)」と「スペース」の2つだけです。
ルール1:コロンは「=(イコール)」の合図
YAMLでは、必ず「項目名: 中身」という形を使います。
target: 初心者
※コロンの後に、半角スペースを入れるのを忘れないでください。これがないと、白線が滲んでしまいます。
ルール2:階層は「半角スペース2回」で下げる
情報をグループ化したいときは、改行して半角スペースで字下げします。 回数は自由ですが、業界標準の「2回」と決めておくのが一番安全です。
ブログ設定:
タイトル: 日記
更新頻度: 毎日
※階段の高さがバラバラだと、コンピュータが躓いてしまいます。縦のラインを揃えるのがコツです。
ルール3:Tabキーは使わない
これが一番のポイントです。 Tabキーで字下げすると、見た目は同じでも内部的にズレが生じてエラーになります。 字下げには必ず「半角スペースキー」を使ってください。
この3つさえ守れば、引いた白線は、コンピュータにくっきりと認識されるはずです。
【実践】Obsidianで書く時の「罠」と解決法
さて、ここまでYAMLの書き方を学びました。 では実際に、Obsidianやメモアプリで「AIにコピペするためのプロンプト」を書く時、どう書けばいいでしょうか?
実は、ここに非エンジニアがハマる罠があるのです。
罠:--- で囲むと、横線になってしまう
直感的には、こう書きたくなりますよね:
# 指示
記事を書いてください。
---
target: 初心者
tone: friendly
---
ノート先頭のプロパティと同じ形ですから。
ですが、これをObsidianのライブプレビューで見ると、--- は水平線(横線)として表示されてしまいます。
YAMLの内容は見えますが、視覚的に「これが重要な指示だ」と分かりにくいのです。
解決法:コードブロック(“`yaml)を使う
正解は、こう書くことです:
# 指示
記事を書いてください。
```yaml
target: 初心者
tone: friendly
```
こうすると、Obsidian上で:
- グレーの背景色がついた枠で囲まれる
- 色分け(シンタックスハイライト)される
- 一目で「ここは特別なデータだ」と分かる
非エンジニアにこそ、この視覚的な明確さが重要なのです。
AIへの伝わり方も明確
ClaudeやChatGPTも、コードブロックで囲まれていると即座に理解できます: 「ああ、これは厳守すべき構造化データだな」と。
--- で囲んでも理解はできますが、コードブロックのほうが意図の伝達が確実なのです。
テンプレートを作っておこう
Obsidianで、こんなテンプレートを作っておくと便利です:
## 条件(厳守)
```yaml
target:
tone:
length:
```
## 背景(参考)
[ここに文脈を書く]
このテンプレートをコピペして、条件部分だけ変えて使いましょう。 これで、Obsidianでもクリアな白線が引けるというわけですね。
3. Obsidianが「書きやすい」理由は、白線にありました
Obsidianというメモアプリを使っている方なら、見たことがあるはずです。 ノートの冒頭に現れる、この領域を。
---
tags: [ブログ, AI]
status: 下書き
created: 2026-01-16
---
これがYAML(プロパティ)なのです。
私は長い間、これを単なる「管理用のメモ欄」だと思っていました。 「まあ、あると便利かもしれませんね」くらいの認識です。
ですが、Obsidianの設計思想を理解したとき、ハッとしたのです。
この --- は、道路の白線だったのですね。
Obsidianは、このYAMLエリアを使って、役割を明確に分離しています。
白線の内側(YAMLエリア)= 機械の世界
- コンピュータが読む場所です
- 検索、分類、自動処理のために存在します
- ルールを厳守し、感情を持ちません
白線の外側(本文エリア)= 人間の世界
- 考え、迷い、書き直す場所です
- 構造を気にせず、自由に思考していいのです
- 感情も文脈も、そのまま残せます
Notionを使っていて疲れた経験はないでしょうか?
あのツールは確かに多機能です。素晴らしいツールだと思います。 ですが、使っているうちに「すべてをデータベースに入れて綺麗に整理しなければ」というプレッシャーを感じることはないでしょうか。
それは、道路全体が白線だらけ(機械寄り)だからなのです。 どこを走っても「ルール」に縛られる。自由に走れる場所がない。
一方、Obsidianが書きやすいのは、白線の内側だけ機械寄りで、白線の外側は自由に走れるからです。
プロパティ(YAML)のところに status: 思考中 と書いておけば、それで管理は終わりです。 あとは本文で、好きなだけ迷っていい。矛盾していい。感情的でいい。
「管理するのは冒頭の3行だけ。あとは人間のまま書いていいのです」
これが、Obsidianが手放せなくなる理由でした。
補足:--- はObsidianの「特別な場所」でだけ使うもの
ところで、この --- で囲む書き方は、実は「YAML Front Matter(ヤムル・フロントマター)」という、ノートの先頭専用の特殊な形式なのです。
Markdownの世界では、「ノートの一番上だけ」特別にYAMLを書ける場所があって、そこは --- で囲むというルールになっています。
Obsidianのプロパティは、この仕組みを使っているわけですね。
では、AI用のプロンプトなど、本文中でYAMLを書きたい時はどうすればいいでしょうか? その答えが、次のセクションです。
4. AIが暴走する理由は、白線がないからです
ここからが本題です。
ChatGPTやClaudeに指示を出すとき、こんな経験はないでしょうか?
- 「優しいトーンで書いて」と言ったのに、なぜか硬い文章になる
- 「3つに絞って」と言ったのに、気づけば7個も項目が出てくる
- 何度も指示を出し直すうちに、疲れてくる
これ、AIが悪いわけではないのです。
指示に、白線がないからなのですね。
従来の指示(白線なし)
あなたはプロのブロガーです。
YAMLについて、初心者向けに優しく説明してください。
専門用語は使わないでください。
結論から書いてください。
私は最近YMYLと勘違いしていて…という失敗談から入りたいです。
AIの視点で見ると、これは対向車線が見えない道路なのです。
- 「優しく」は、どこまで優しく?(←感情的な指示ですね)
- 「専門用語は使わない」は、どこまで厳守すべき?(←ルールです)
- 「失敗談から入りたい」は、参考程度?それとも必須?(←曖昧です)
AIは混乱します。 そして混乱したAIは、安全運転を選びます。 つまり、無難で、硬く、予測可能な文章になってしまうのです。
YAML式の指示(白線あり)
では、こう書いてみたらどうでしょう?
# 指示
以下の条件を守って、YAML解説記事を書いてください。
```yaml
tone: friendly
target_reader: 初心者
forbidden:
- 専門用語の多用
- 結論を最後に持ってくる構成
required:
- 冒頭に失敗談を入れる
```
# 背景(参考情報)
最近YMYLとYAMLを勘違いしていて、恥ずかしい思いをしました。
でも、そのおかげでYAMLの本質が見えた気がするのです。
読者にも、同じ「気づき」を届けたいと思っています。
何が変わったか、お分かりでしょうか?
白線が引かれたのです。
- YAML部分 = 絶対に守るべきルール(対向車線に出てはいけません)
- Markdown部分 = 文脈として理解すべき背景(車線の内側で自由に走っていい)
AIは迷わなくなります。 なぜなら、「ここまでは厳守。ここからは柔軟に」という境界線が見えるからなのです。
驚くべきことに、AIが賢くなったわけではありません。 境界線があるから、迷わなくなっただけなのですね。
5. AI時代のいまYMYLとYAMLはどちらも重要
さて、ここで冒頭の勘違いに戻りましょう。
私は「YMYL」と「YAML」を混同していました。 ですが今なら分かります。この2つは、実は繋がっているのです。
| 概念 | 意味 | 役割 |
|---|---|---|
| YMYL | Your Money or Your Life | 人間が人間を信頼するための基準 |
| YAML | YAML Ain’t Markup Language | 人間が機械を信頼させるための構造 |
AI時代において、私たちは2つの信頼を守らなければなりません。
- 人間からの信頼(YMYL):正確で、責任ある情報を発信すること
- 機械との信頼(YAML):曖昧さを排除し、正しく指示を伝えること
どちらが欠けてもダメなのです。
6. 明日から使える「白線の引き方」3選
ここまで読んで、「なるほど、分かりました」と思った方、それで終わりにしないでください。
今すぐ、白線を1本だけ引いてみてください。
① Obsidianを使っている方なら
今開いているノートの冒頭に、これだけ足してみてください:
---
status: 思考中
---
たった1行です。 ですが、この瞬間から、ノートには「管理ゾーン」と「思考ゾーン」が生まれます。
② AIを使っている方なら
次にChatGPTやClaudeに指示を出すとき、こう書いてみてください:
```yaml
# 条件
tone: カジュアル
length: 300文字以内
```
たった2行です。 ですが、AIの出力精度が、驚くほど上がるはずです。
③ ブログを書いている方なら
記事の下書き段階で(WordPress、Notionどこでも構いません)、冒頭にこれを足してみてください:
```yaml
target: 初心者
goal: 行動に繋げる
avoid: 説教臭い文章
```
公開しなくてもいいのです。自分が見るだけで構いません。 ですが、書いている途中で迷ったとき、この白線が正しい車線に戻してくれます。
まとめ:白線は、未来への信頼なのです
「YMYL」だと思っていた「YAML」。
最初は、自分には無縁のエンジニア用語だと思っていました。 ですが今では、はっきりと分かります。
YAMLは魔法のコードではないのです。 それは、道路の白線なのですね。
白線があるから、私たちは対向車を気にせず、前だけ見て走れます。 白線があるから、AIは暴走せず、私たちの意図を正確に理解できます。
もしObsidianを使っている方なら、一度ソースモードでノートを開いてみてください。 もしAIに指示を出している方なら、一度YAMLで条件を書いてみてください。
そこには、思考を守るための、静かな白線が引かれているはずです。
参考までに。それでは!


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