M1はノートパソコンの歴史を変えた。なのにAppleはAIでGoogleを必要とした

ノートパソコンのチップとAIクラウドが向かい合い、端末処理と外部AIの関係を示すイラスト Apple製品
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※この記事は、2024年6月に公開した記事を2026年8月に全面的に書き直したものです。当時の考えを残しながら、その後に起きたことを踏まえて考え直しています。

2024年6月、Apple Intelligenceが発表された直後に、私は「AIでもやっぱりAppleは勝ちそう」という記事を書きました。

いま読み返してみると、かなりAppleへ期待しています。最後には「Apple強え」とまで書いていました。我ながら、ずいぶん勢いがあります。

なぜ、そこまで素直にAppleを信じられたのか。考えてみると、大学生のころに初めてiPod touchを使ったときの記憶が、その根っこにあったのだと思います。

指で画面を動かすと、表示が滑らかについてくる。フリック入力も、それまで使っていた携帯電話の文字入力とはまったく違いました。いまでは当たり前の操作ですが、当時の私にはかなり新鮮でした。

Appleは、新しい技術を一部の詳しい人だけが使うものにせず、普通の人でも自然に使える製品へまとめるのがうまい。私はそのころから、そんな印象を持つようになりました。旧記事にも、iPod touchの操作感に感動したことや、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせてユーザー体験を作るAppleの強さについて書いています。

だから生成AIが登場したときも、似たことを考えました。

ChatGPTはすでに便利でしたが、自分からサービスを探し、アプリやブラウザを開いて使う必要があります。ところがAppleがiPhoneやMacの標準機能としてAIを組み込めば、生成AIを意識していない人まで普通に使うようになるかもしれません。

しかもAppleには、iPhoneやMacという端末だけでなく、OS、主要なアプリ、そして高性能で省電力な独自チップがあります。

AIがメールや写真、予定といった個人的な情報を扱うようになるなら、プライバシーを製品戦略の重要な柱にしてきたAppleは、かなり有利なのではないか。

2024年の私は、そう考えました。

その期待を支えていたのが、M1から始まったAppleシリコンです。

M1は、本当にノートパソコンを変えた

2020年にM1搭載Macが登場したとき、私は久しぶりに、パソコンそのものが一段進化したように感じました。

それまで高性能なノートパソコンには、ある程度の我慢が必要でした。負荷をかければ熱くなり、ファンが回る。性能を高くすればバッテリーには不利になる。薄くすれば、今度は冷却が難しくなる。

M1搭載MacBook Airは、その関係をかなり崩しました。

ファンがありません。それなのに、Appleの公称値では前世代よりCPU性能が最大3.5倍になり、動画再生時間は最大18時間まで伸びました。もちろんメーカー自身の比較なので数字はそのまま絶対視できませんが、「速いのに静かで、しかもバッテリーが長い」という製品だったことが、M1の大きな衝撃でした。Apple自身もM1について、10年以上にわたるiPhone、iPad、Apple Watch向けチップ設計の蓄積をMacへ持ち込んだものだと説明しています。

M1がなぜこれほど高性能で省電力だったのかを調べると、「SoC」「ユニファイドメモリ」「5nm」といった言葉が出てきます。

ただ、私はここで少し引っかかりました。

CPUやGPUなどを一つにまとめれば、場所を取らないし、データをやり取りする距離も短くなる。それなら速くて省電力になるのは当然ではないか。

だったら、なぜみんな最初からそうしなかったのでしょうか。

SoCにまとめれば全部解決、というほど簡単ではなかった

一体化したチップの内部構成と、交換しにくい部品を並べて統合の利点と代償を示すイラスト

SoCは「System on a Chip」の略で、CPU、GPU、メモリ制御、入出力、専用の演算回路など、コンピューターに必要な多くの機能を一つのチップへまとめる考え方です。

これはAppleの発明ではありません。スマートフォンではM1以前から当たり前に使われていました。

M1で重要だったのは、それをMacへ本格的に持ち込んだことです。

従来のMacやPCではCPU、I/O、セキュリティなどに複数のチップを使う構成が一般的でした。M1ではそれらの多くを一つのSoCへまとめ、さらにCPUやGPUなどが同じメモリ上のデータへアクセスできる「ユニファイドメモリ」を採用しました。別々のメモリ領域へ同じデータを何度もコピーする必要を減らせるため、性能だけでなく消費電力にも有利になります。

ここまでなら、やはり全員が真似すればよさそうに思えます。

しかし、統合すれば自由は失われます。

Macでは購入後にメモリを増設できません。GPUだけを交換することもできません。

Windows PCなら、安いCPUと高性能なGPUを組み合わせたり、後からメモリを足したり、用途に合わせて部品を交換したりできます。その自由を重視するなら、何でも一体化すればよいとは限りません。

Appleは事情が違います。

チップ単体を、さまざまなメーカーのさまざまなパソコンへ売る必要がありません。どのMacに載せるのか、どのくらいのメモリを用意するのか、どんな筐体に入れるのか、OSをどう動かすのかまで、自分たちでかなり決められます。

だからAppleは、拡張性を犠牲にしてでも、完成した製品全体の効率を高める方向へ振り切れました。

M1のすごさは、「部品をまとめた」というアイデアそのものではなかったのだと思います。

まとめることで失うものまで含めてAppleが引き受け、それでも買った人が満足する製品に仕上げた。

5nmを使えたから速かった、だけでもない

先端チップと設計図風の要素を並べ、製造技術だけでは性能が決まらないことを示すイラスト

もう一つ気になったのが、TSMCの5nmです。

M1は、Appleによれば5nmプロセスで作られた最初のパーソナルコンピューター用チップでした。160億個のトランジスタが搭載されています。

当時のTSMCは、5nmのN5について、前世代の7nmと比べて同じ電力なら最大15%の性能向上、同じ性能なら最大30%の消費電力削減、論理回路の密度は最大80%向上すると説明していました。

これはかなり大きな進歩です。

では、Appleがお金を持っていたから5nmを早く使えたのか。そして、ほかの会社も同じ5nmを使えばM1のようなチップを簡単に作れたのか。

前半については、具体的な契約内容が公開されていない以上、「Appleが資金力で5nmを取った」とまでは言えません。Appleの巨大な発注量や、iPhone向けAシリーズを通じて先端プロセスを使い続けてきた関係が有利だった可能性はありますが、そこは推測と事実を分ける必要があります。

後半については、もっとはっきりしています。

5nmだけではM1にはなりません。

TSMCの数字を見ても、5nmへ変えただけでCPUが数倍速くなるわけではありません。5nmによって増えた回路の余裕や電力の余裕を、どこへ使うかは設計する会社次第です。

Appleはそこへ、自社設計のCPUコア、GPU、大きなキャッシュ、高性能コアと高効率コア、Neural Engine、各種の専用回路を詰め込みました。さらにmacOSまで、そのチップを前提に作れます。M1では四つの高性能コアと四つの高効率コアを組み合わせ、軽い処理を高効率コアへ任せる設計も採られました。

TSMCが非常に優れた製造技術を用意し、Appleがその余裕を生かす設計を用意した。

どちらか片方だけでは、M1にはならなかったのでしょう。

なぜファンレスでも速かったのか

MacBook Airにファンがないことも、改めて考えると変な話です。

CPUが仕事をすれば電力を使い、熱が出ます。Mチップだけ熱が発生しないわけではありません。

MacBook Airがファンレスでも速く感じられるのは、熱を出さないからではなく、同じ仕事を比較的少ない電力で終えられるからです。

Webページを開く。アプリを起動する。写真へ一つの処理をかける。

こうした日常的な操作は、CPUを何十分も全力で動かし続けるものではありません。必要なときに素早く処理を終え、その後は低い消費電力へ戻れれば、熱が大量にたまり続ける前に仕事が終わります。

AppleもM1 MacBook Airについて、M1の電力効率によってファンレス設計でも性能を出せると説明していました。一方、同じM1を搭載したMacBook Proにはファンがあり、長時間の重い処理で性能を持続させる設計になっていました。

つまりMacBook Airは、「ファンがなくても永遠に最大性能を出せるMac」ではありません。

短時間の処理や普段使いなら、そもそも大量の熱を出さずに済む。それでも熱がたまり続ける仕事なら、ファンを備えたMacBook Proの方が有利です。

この違いを考えると、M1が何を変えたのかが少し分かりやすくなります。

M1は、パソコンをどこまでも速くしたというより、普通の人が必要とする速さを、とても少ない電力で出せるようにしたチップだったのだと思います。

そして、それが次の疑問につながります。

M1の時点で、普通の人には十分になってしまった

ノートパソコンでWeb閲覧や文章作成をしながら、性能が十分である様子を示したイラスト

M1のあともM2、M3、M4、M5とチップは進化しました。

もちろん性能は上がっています。

でも、Webサイトを見る。文章を書く。動画を見る。簡単な写真編集をする。

その程度の作業なら、M1でもまだそれほど困りません。

これはM1が古くなっていないというより、M1が成功しすぎた結果なのだと思います。

昔のパソコンは、数年買い替えればアプリの起動やWeb閲覧だけでも明らかに速くなりました。ところがM1以降、普通の操作では性能不足を感じることがかなり減りました。

新しいチップがさらに速くなっても、その違いがはっきり出るのは、動画編集、3D、開発、ゲームなど負荷の高い作業が中心になります。

そこで私は、旧記事にもこんなことを書いていました。

もう十分サクサク動くのだから、チップはそこまで進化しなくていい。その分安くしてほしい。

かなり率直です。

ところが2024年、Apple Intelligenceが発表されました。

私はそこで、答えを見つけた気になりました。

AIです。

余っているように見えた性能に、使い道ができた

生成AIは、普通のアプリとはかなり違う計算をします。

文章を表示するだけでなく、文章の意味を読み取る。音声を認識する。写真の中に何が写っているか理解する。大量の情報から必要なものを探す。

しかも、それをiPhoneやMacの中で動かしたいなら、単にCPUが速いだけでは足りません。

AIモデルそのものを置くためのメモリが必要です。そこから大量のデータを読み出し続けるため、メモリの転送速度も効いてきます。そしてスマートフォンやノートパソコンでは、性能以上に電力が問題になります。

AIが便利だからといって、何かを頼むたびにiPhoneが熱くなり、バッテリーが大きく減るのでは困ります。

ここで、Mチップの設計が急に別の意味を持って見えてきました。

ユニファイドメモリは、生成AIのためだけに作られた仕組みではありません。しかしAIモデルはメモリ容量やデータ移動の影響を強く受けます。CPU、GPUなどが同じメモリを共有できる構造は、ローカルAIとも相性がよい。

さらにAppleは2024年、Apple Intelligence用として約30億パラメータの端末内モデルを用意し、iPhone 15 Proでは量子化などの工夫によって毎秒約30トークンの生成性能を実現したと説明しました。Appleはその最適化で、メモリ、消費電力、性能の制約を同時に満たすことを重視しています。

なるほど、と思いました。

普通のアプリを動かすだけなら余っているように見えた性能でも、AIを端末内で動かすなら話は違います。

しかもローカルで処理できれば、通信を待たずに済みます。通信できない場所でも使えます。個人的な情報を外へ送らずに終えられる処理も増やせます。

「やっぱりAppleは、AI時代でも強いのではないか」

2024年の私は、そう考えました。

ただし、ここで一つ、私はAppleの発表を少し都合よく理解していました。

Appleは最初から「全部ローカル」とは言っていなかった

旧記事では、生成AIの処理をクラウドへ送れば情報が漏れ、AppleならiPhone内部で処理できるので安全だ、という趣旨のことを書きました。いま読むと、かなり単純化しています。

クラウドへ送ることと情報漏洩は同じではありません。

そして、端末内で処理すれば自動的に絶対安全になるわけでもありません。

何より、Apple自身が2024年の時点から、Apple Intelligenceを完全なローカルAIとして説明していませんでした。

Apple Intelligenceは、端末内処理と、より大きなサーバーモデルを使うPrivate Cloud Computeの間で、必要に応じて計算能力を振り分ける設計でした。約30億パラメータの端末内モデルとは別に、Appleシリコンのサーバー上で動く、より大きなモデルも最初から用意されています。

AppleのPrivate Cloud Computeは、端末内では難しい処理をクラウドへ送る一方、送られた個人データをその依頼の処理だけに使い、処理後に保持しないこと、Appleの管理者にも特権的なアクセスを与えないことなどを設計要件にしています。外部の研究者が、実際に稼働するソフトウェアを検証できる仕組みも掲げました。

つまりAppleの考え方は、最初から、

「Mチップが強いから、何でも端末の中でやる」

ではありませんでした。

「端末でできることは端末でやる。それでは足りない仕事は、プライバシーを守れるクラウドへ持っていく」

です。

この時点で、私が2024年に思い描いていた「Appleシリコンさえ強くなれば、AIの多くをiPhoneの中だけで解決できる」という物語は、少し修正する必要がありました。

それでもまだ、Appleの中だけで完結する話には見えます。

端末にはAppleシリコン。クラウドにもAppleシリコン。

それなら、やはりAppleらしい垂直統合だな、と。

ところが2026年、さらに話が変わりました。

それでもAppleはGoogleを必要とした

端末内のチップと外部AIクラウドがつながり、役割分担して処理する様子のイラスト

2026年1月12日、AppleとGoogleは複数年のAI協力を発表しました。

内容はかなり踏み込んでいます。

次世代のApple Foundation ModelsをGoogleのGeminiモデルとクラウド技術を基盤にして作る。Appleは複数の選択肢を評価したうえで、GoogleのAI技術がApple Foundation Modelsにとって最も有力な基盤だと判断した、と共同声明で説明しています。

これは、単にSiriからGeminiを呼び出せるようにする程度の話ではありません。

2026年6月にAppleが公開した第3世代Apple Foundation Modelsは、Googleと共同開発された5種類のモデルで構成されています。

そのうち2種類は端末内モデルです。最も強力な「AFM 3 Core Advanced」は200億パラメータを持ちながら、依頼に応じて10億〜40億パラメータだけを動かし、Appleの高性能なチップ向けに最適化されています。

一方で3種類はサーバー側のモデルです。最も高度な推論やエージェント処理を担当する「AFM 3 Cloud Pro」については、GoogleとNVIDIAが協力し、Google Cloud上のNVIDIA GPUへPrivate Cloud Computeの考え方を拡張しました。

Appleシリコン。

GoogleのGemini技術。

Google Cloud。

NVIDIA GPU。

ずいぶん賑やかな構成になりました。

M1が登場したころの「重要なものを自分たちで作れば強くなれるApple」という物語とは、かなり違って見えます。

そこで、また疑問が出てきます。

Googleは、Appleが自社AIを完成させるまでの一時的な助っ人なのでしょうか。

それともAppleは、AIモデルを作る競争では負けてしまったのでしょうか。

Googleは「つなぎ」なのか

Appleには、他社の技術を利用しながら自社技術を育て、後から置き換えてきた歴史があります。

Macは長くIntel製CPUを使っていました。しかしAppleはその間にiPhoneやiPad向けチップを育て、最後にはM1へ移行しました。

そう考えると、GoogleとのAI提携も同じように見えます。

いまはGeminiを使う。数年後にはApple独自モデルが追いつく。Mチップもさらに強くなり、より多くのAI処理が端末へ移る。そして最後にはGoogleへの依存を減らしていく。

私も最初は、この筋書きが一番分かりやすいと思いました。

でも、CPUとAIモデルには大きな違いがあります。

CPUは、完成させたい製品の目標が比較的はっきりしています。より速く、より省電力にしながら、必要なソフトウェアを動かせればよい。

AIの「賢さ」は、そこで止まりません。

数年後のiPhoneが、現在の大きなAIモデルをローカルで動かせるようになったとしても、そのころにはクラウド側のAIもさらに進化しているでしょう。利用者がAIへ求める仕事そのものも増えているはずです。

端末内AIが進化すれば、いつかクラウドAIを全部置き換えられる。

そう単純にはならない気がします。

個人的な情報を扱う軽い処理、頻繁に繰り返す処理、通信できない場所でも必要な処理は端末で動かす。

その一方で、複雑な推論や巨大な計算能力を必要とする仕事はクラウドへ任せる。

Appleが2024年から採っていた構成も、2026年にGoogleと共同開発した5モデルの構成も、この分業を前提にしています。

しかもGoogleとの契約は、公式に「複数年の協力」とされています。

将来、Appleが自社技術の割合を増やす可能性はもちろんあります。Googleとの関係が永遠に続くと決まったわけでもありません。

ただ少なくとも2026年現在、Googleを「端末内AIが完成するまでの短いつなぎ」と断定できる材料はありません。

では、AppleはAIで負けたのか

これも、「負けていない」ときれいに説明する必要はないと思います。

最先端の基盤モデルを自社だけで作り、それを使ってAppleが望むAI機能を予定どおり実現する、という競争ではAppleは出遅れました。

Apple自身が、GoogleのAI技術をApple Foundation Modelsの「最も有力な基盤」と判断したと公表しています。

十分なものを自分たちだけで作れていたなら、この判断は必要なかったはずです。

その意味では、AppleはAIモデル開発の一部で負けた、と私は考えています。

ただし、ここで「だからAppleシリコンも意味がなくなった」と考えると、また話を単純にしすぎます。

Googleと共同開発した2026年のモデルを見ても、二つの端末内モデルは残っています。さらにサーバー側でも、5種類のうち4種類はAppleシリコン向けに作られています。最も難しい処理を担当するCloud ProだけがNVIDIA GPU向けです。

AppleはローカルAIを諦めたわけではありません。

むしろ、端末でやる仕事とクラウドへ渡す仕事を、以前よりはっきり分けるようになっています。

Googleを使っても、Mチップはまだ必要なのか

ここで最初の疑問へ戻ります。

M1の時点で、普通の人には十分すぎるほど速い。それなら、Googleの巨大AIをクラウドで使えるようになった今、Appleシリコンをさらに高性能にする必要はあるのでしょうか。

私は、やはり必要なのだと思います。

ただし、その理由は以前と少し違います。

昔は、新しいチップが速くなると、アプリが速く起動したり、動画の書き出し時間が短くなったりしました。性能向上がそのまま利用者の目に見えました。

AI時代のチップ性能は、もっと地味なところで使われる可能性があります。

メールの内容を整理する。音声を文字にする。写真の内容を理解する。画面に表示されている情報を読み取る。個人的なデータから必要なものを探す。

こうした処理が一日に何度も裏側で走るようになれば、一回だけ最高速度を出せることより、少ない電力で何度でも処理できることの方が重要になります。

それはM1が最初から得意としていたことです。

速いだけではなく、性能あたりの消費電力が低い。CPU、GPU、専用回路が近い場所にあり、同じメモリを使える。必要な処理だけを端末内で済ませれば、通信を減らせます。

何より、個人情報に近い仕事ほど、端末から出さずに処理できる価値があります。

Appleシリコンの役割は、世界最高の巨大AIモデルをMacBook Airの中へ丸ごと押し込むことではなかったのでしょう。

クラウドへ行かなくてもよい仕事を、できるだけ手元で片付けること。

その範囲を少しずつ広げるために、チップの進化が必要になる。

いまの私は、そう考えています。

2024年の「Apple強え」は、少し単純だった

2024年の記事で、私はAppleにはAI時代に必要な材料がそろっていると思っていました。

iPhoneがある。

OSがある。

プライバシーを重視する姿勢がある。

そして高性能で省電力な独自チップがある。

だからAIでも強いだろう、と。

2年後に振り返ると、当たっていた部分はあります。

Appleシリコンは確かに端末内AIの重要な土台になりました。Apple Intelligenceは個人の文脈を扱うことを中心に設計され、可能な処理を端末内で行う考え方も変わっていません。2026年の最新モデルでも、Appleは強力なオンデバイスAIをさらに拡張しています。

一方で、かなり楽観的だった部分もあります。

私は、高性能なチップを持ち、ハードとOSをまとめて作れるAppleなら、AIも同じように自社の中へきれいに収められると思っていました。

実際には、そうなりませんでした。

Appleは基盤モデルの開発でGoogleを必要とし、最も高度なクラウドAIではNVIDIA GPUまで使うことになりました。

M1は、Appleが重要な技術を自分たちで設計することで、ノートパソコンを大きく変えられることを示しました。

AIでは、その成功パターンをそのまま繰り返せませんでした。

だからといって、Mチップの価値が消えたわけでもありません。

むしろ面白いのは、ここです。

M1のころは、「どこまで自分たちで作れるか」がAppleの強さに見えました。

AIでは、「何を自分たちで持ち、何を外から借りるのか」を決めることの方が重要になりつつあります。

Googleとの提携が、その選び直しで本当に正しい答えなのか。最も重要な「知能」の基盤を外部へ頼りながら、Appleはこれまでのように製品全体の主導権を握れるのでしょうか。

そこは、Mチップだけを見ていても答えが出ません。

AppleがなぜGoogleを選んだのか、そしてAI時代にAppleの垂直統合がどう変わるのかについては、別の記事で詳しく考えています。

関連記事
→AppleはなぜAIでGoogleを必要とした?「垂直統合」はどこまで崩れたのか

参考資料

2026年8月7日閲覧。

Apple「Apple unleashes M1」(2020年11月10日)

Apple「Introducing the next generation of Mac」(2020年11月10日)

TSMC「TSMC Showcases Leading Technologies at Online Technology Symposium and OIP Ecosystem Forum」(2020年8月25日)

Apple「Introducing Apple Intelligence for iPhone, iPad, and Mac」(2024年6月10日)

Apple Machine Learning Research「Introducing Apple’s On-Device and Server Foundation Models」(2024年6月10日)

Apple Security Research「Private Cloud Compute: A new frontier for AI privacy in the cloud」(2024年6月10日)

Google・Apple「Joint statement from Google and Apple」(2026年1月12日)

Apple Machine Learning Research「Introducing the Third Generation of Apple’s Foundation Models」(2026年6月8日)

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